【小阪裕司コラム第109話】「良いもの」が「正当な価格」で
【小阪裕司コラム第109話】「良いもの」が「正当な価格」で
先日、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)で毎月行っている、事例を深掘りし活用するためのウェビナーで、ゲストの方から聞いた話がとても重要なことと感じたゆえ、ここでも分かち合いたい。
この日のゲストはお二人。それぞれの最近の成果を深掘りさせていただいたのだが、お一人目が地方の小さな町の食品スーパー経営者だった。ある商品を、POP(店頭販促物)などを使ってワクワク系的に価値訴求し、小さな店であるにも関わらず、県内で1番の販売数量となっている事例だ。重要だと感じたのはそれにまつわる話だったが、その前に、彼がその日公開してくれた多くの事例がとても面白かったので2,3紹介しよう。
例えばあるナッツ系のお菓子につけられたPOP。そこには「めっちゃ旨いやん by店長」。売り場下にはもう1枚のPOPがあり、そこには「『子供に全部食べられた』って方が増えてます!」。またバームクーヘンのPOPには「なーんてバームだ!」。そして「こんなにしっとりしてるとは…」など、店長独自の商品説明が続く。
そしてある売り場には、POPに大きく「美味しさデパ地下レベル」。これが先にお伝えした、県下1になったものだ。それは定価300円ほどのクッキーなのだが、店主は「500円でも売れるほど美味しい」というし、POPでもそこを訴求し、「この価格嘘じゃないの?って思うぐらいレベルの高いクッキー」などと推している。しかし卸元の推奨売価は258円。それはないだろう、せめて定価で、と彼は定価で売り続け、それでも県下1となった。ここが、私が「重要なこと」と感じたことだ。
なぜ「良いもの」を「安く」売ろうとするのだろう? 「安く」しなければ「売れない」というなら、それは間違いであることが、先の店主の成果からも分かる。もちろん、「良いもの」を「正当な価格」で売るためには、先に挙げた例のように、価値の伝え方を工夫しなければならないし、上達する必要もある。かの店主も最初からできたわけではなかったが、今やできる。そうならなければ、「良いもの」が「安い」ままだ。
また日本では「良いもの」を「安く」売ることが商慣習であるようにも思えるが、だとすれば、そろそろそういう商慣習からは脱するときだ。今や、「良いもの」が「安い」ままでは誰もハッピーになれないからだ。
「良いもの」が「正当な価格」で「よく売れる」世の中を作る。それもまた、私たちワクワク系のミッションである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。