【小阪裕司コラム第114話】客単価を8割上げるには
【小阪裕司コラム第114話】客単価を8割上げるには
前回、ワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)のお茶製造・卸・直販業の方が卸単価を大幅に上げた話をした。そこで重要なことは、「客単価が上がる」という「結果」は「価値が伝わる」という「原因」から生まれると。
今日は同様の事例を見ることで、より理解を深め実践につなげよう。
飲食店における客単価アップの事例だ。
結論から言うと、ワクワク系を始める前(2016年)と現在(2021年1~4月)を比較すると、同店の客単価は8割アップした。これをお読みのあなたが飲食店経営者だったら、このアップ幅に驚くことだろう。そして、同店のある場所は東京都内のオフィス街。業種は居酒屋。言ってみれば激戦区。客単価はむしろ競争により下がっていく傾向のある場所なのだ。
同店も以前はそういう店だった。店主曰く、すべてのメニューの値段は、常に周りの店の値段を念頭に、それを上回らないようにつけていた。高くすればお客さんが来なくなると思っていたと。しかし今は違う。例えば同店の人気商品であるぼたん鍋は、かつて2800円だったものが現在は3800円。それでも以前にも増して売れているのである。
もちろん、ただ単に値上げしたのではない。2016年の頃からぼたん鍋の原価率の高さには悩んでいたというが、現在のぼたん鍋は当時よりさらにこだわった肉を使っている。しかし現在は、周りの店を見ての売価初めにありきの発想ではなく、高い原価に正当な粗利を乗せた売価を堂々とつけて売ることができているのだ。
ではなぜその売価が通るのか。例えば人気商品のあるぼたん鍋は単なる「ぼたん鍋」ではない。「みかん猪のぼたん鍋」だ。なぜ「みかん猪」なのかといえば、その猪の産地ではみかんの栽培が盛ん。猪はみかんが好物なので、当地ではそれを存分に食べている。そうした猪の肉はみかんの風味がし、他の猪とは一線を画した美味しさとなる。現在同店では、その「価値」を丁寧に伝えているのだが、こういったことを、他のすべてのメニューで行っているのである。
念のため言うが、ここで言いたいことは、メニューの書き方が上手いかどうかではない。「価値を売る力」をつけられるかどうかだ。その力がつくことで、客単価8割アップの結果も生み出せる。
現在東京都内の居酒屋には厳しい情勢が続いているが、店主は明るくこう言った。
「ワクワク系はテクニックではないので売り上げを自分でつくりだすことができます。上達すれば魔法より強力です」。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。