【小阪裕司コラム第115話】「価値を売る力」の真髄とは

【小阪裕司コラム第115話】「価値を売る力」の真髄とは

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第115話】「価値を売る力」の真髄とは

前回、東京都内のワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)の居酒屋が客単価を8割上げられた話をした。同店が歩を進めている先には、小売・サービス業、特に中小企業、小規模事業者が営むそれにとって重要な未来がある。それを話すにあたり、この居酒屋の話を続けよう。

前回、同店が客単価を8割上げられた中で行ったことの一例として、「みかん猪のぼたん鍋」のお話をした。そして重要なことは「メニューの書き方」ではなく、「価値を売る力」だとも。この2つの違いは何だろうか?

あなたがもしぼたん鍋を出している飲食店主だったら、みかん猪の肉を仕入れ、前回のエピソードを参考にメニューを書き、来店客に語りかけてみれば、近い結果は得られるだろう。ならば「メニューの書き方」ではないかと言えば、それは違う。同店主も、以前からみかん猪の仕入れ先とは付き合いがあった。たぶん同様の話は聞いていただろうと彼は言う。しかし以前は聞き流していた。それが価値ある情報だと分かる力がなかったのである。

また、それが「価値ある情報」だと分かるには、自店の顧客が何に喜ぶかを分かっている必要がある。振り返れば、店主がワクワク系を始めたとき、まずやり始めたことは来店客との対話だった。それを続けていく中で、顧客のことが分かるようになっていったことが重要だと彼は言う。メニューを書くテクニックの問題ではないのである。

ワクワク系では顧客との対話を常に重視し、コミュニケーションを絶やさない。さらに、このコラムでも再三お伝えしているが、利用客を顧客化していくと共に、顧客コミュニティを育成する。同店も今では「秘密俱楽部」と称する“濃い顧客”だけのサブコミュニティまで育ってきた。熊肉なども出す同店だが、そういうものが好きな人が集まって来るだけでなく、同店の顧客は、この手の料理を楽しめる顧客に育っていくのだ。この“顧客マネジメント力”、そこに価値を売る力が加わって、今日最強のものとなる。そしてこの道は、とりわけ中小、小規模な小売・サービス事業者にとって向いており、同店がそうであるように、先行き明るい道なのである。

ジビエ料理をやりたくて始めた同店、今では出したい料理を売りたい価格で売れること、それを楽しみにしている顧客が多くいることが何より嬉しいと店主は語る。それがコロナ禍の不安を和らげ、気力を持続させるとも。商いの道は一つではなく、それぞれに合った道がある。誰しもに、自分らしい道を愉しく歩んでいただきたいと、切に願うものである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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