【小阪裕司コラム第275話】商品が売れる・売れないの決め手とは

【小阪裕司コラム第275話】商品が売れる・売れないの決め手とは

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第275話】商品が売れる・売れないの決め手とは

 前回、前々回と「モビール」や「防水スプレー」の事例から、「買う理由」について考えてきた。「雨や泥を弾く」では反応が悪い時節も、「忘年会でビールをこぼさない自信がありますか?」なら買いたくなり、結果として商品の売上は伸びる。商品が売れるか売れないかには、もちろん品質や効果・効能が大事だが、買い手にとっては「買う理由」が決め手となる。そこで今日はこういう事例をご紹介しよう。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、葬儀社からのご報告だ。

 店主曰く、葬儀で使用するお棺は、全国的には木目調のお棺や白い布張りのお棺が主流。様々なデザイン、色のお棺もあるが、8~9割は低価格のものが売れる。その理由は、「燃やしてしまうものだから」。まして同社の地域は〝骨葬〟。告別式の前に火葬があるため、告別式では骨壺だけとなり、お棺が人の目に触れる時間が短い。お棺メーカーが「骨葬地域は高級棺が売れないのは無理もないです」という地域である。同社でも営業の工夫をしてきたものの、高級棺は売れていなかった。

 そこに新商品が入ってきた。それは、強化段ボール製の高級棺。「釘を使わない、強化段ボールの環境にいい、やさしいお棺」である。これまでも同素材のお棺はあったものの売れていたわけではなく、今回も店主は、売れそうにないなとまずは思った。しかし一転、これはいけるかもと感じたのは、「環境にいい」とは別の訴求点に目を留めたからだ。それは段ボール製で釘を使わないゆえ、「ご遺体を傷つけない」という点だった。

 そこでその点を訴求し、売り出してみると、狙いは当たった。売り出してから1年経って前年と比べてみると、例年、販売するお棺の2割程度だった高級棺の売上比率が1割も上がった。このお棺、実は見た目は布張りの高級お棺とほぼ変わらない。しかし値段は4万円も高い。にも関わらず、である。

 「ご遺体を傷つけない」と言っても目に見えない火葬炉の中の話。しかも見た目は同じで価格は高い。しかし骨葬の地域でも、実際、この価値を伝えたことで売り伸びた。「環境にいい」では買う理由にならない人も、「ご遺体を傷つけない」なら買うのである。これまで3回に渡って「買う理由」を事例と共に考察してきたが、これこそが、商品が売れるか売れないかの決め手。売れるときも売れないときも、いつもここに目を向けてほしいものである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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