【小阪裕司コラム第293話】お客さんの行動を変えるには

【小阪裕司コラム第293話】お客さんの行動を変えるには

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第293話】お客さんの行動を変えるには

 ある飲食店でのお話。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のある方が、行きつけの料理店のオーナーから問題を相談され解決した話。

 この料理店はセルフのコーヒーマシンを置いているのだが、オーナーの悩みは、その使い方で質問されたり、誤作動してしまう人が頻繁にいることだった。とはいえ、使い方自体難しくはない。コーヒーカップを受け台に置き、「コーヒー」と書かれたボタンを押すだけだ。しかもボタンは1つだけ。そこにオーナーが書いて貼った使い方表示は、「コーヒーの入れ方」の大きな文字の下に「コップを真ん中に置く。左側の白い『コーヒー』を軽く押す」。

 日頃からオーナーと仲のいい彼は、オーナーから「適切な使い方表示を考えてほしい」と相談され、まずお客さんの行動を観察した。見ていると、たしかに多くのお客さんは迷っている。カップは置けるが、次のアクション、どのボタンか?で迷っているようだ。実は他にもボタンはあり、お客さんが迷わないようにオーナーが他のボタンの上に赤いテープを貼っているのだが、分かりにくさは改善されていないようだ。

 そこで新たな使い方表示を作って貼ってみた。お客さんのアクションを2つに分け、「カップを置く」「『コーヒー』を押す」とし、文章だけでなく写真を掲示し、「コーヒー」のボタンのところを指で押すことが直感的に分かるようにした。

 結果、迷う人は減った。しかし問題は残った。オーナーが言うには、「コーヒー」のボタンを3秒以上押すと別のモードに切り替わってしまうのだが、そうしてしまう人はまだ多く、誤作動になってしまうとのこと。そこで彼はさらに考えた。何と言えば伝わるか。「押してすぐ離す」「1秒間だけ押す」「押し続けない」、どれもかえってややこしい。そうしてたどり着いた言葉が、「『コーヒー』をポチっと押す」。この言葉に掲示を変えた結果、問題は起こらなくなったのである。

 ここでのポイントは、お客さんの行動を、オーナーは長年改善できなかったが、彼は改善できたことにある。カギは、お客さんの行動をよく観察し、考えること。そして、ちょっとした表記の違いだけでも人の行動は変わるということだ。もちろんこれは、「買う」「来店する」といった行動でも同じ。こういうことを、いつも考え行おう。思考がレベルアップするからだ。それこそが様々な結果を生んでいく源なのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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