【小阪裕司コラム第294話】「取引終了」がなぜ「5倍の売上」に?1
【小阪裕司コラム第294話】「取引終了」がなぜ「5倍の売上」に?1
今回は2回連続で、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、ある人材派遣会社からの報告をご紹介したい。お客さんから選ばれるには何が必要か、その気づきに満ちた事例だ。
同社はある地方の町に根ざした小さな人材派遣会社。社長いわく、「一般的に派遣会社の評価は『いかに安いか?』、『いかに早いか?』、『いかに(スタッフが仕事を)できるか?)』といった20年以上前の牛丼業界の様な基準で決まってきました」。そんななか社長は、「安さは論外、早さは大手に勝てない」。また、派遣したスタッフの好評価は嬉しいが、「スタッフさんの能力に依存しすぎるのは甘えでしかない。自社の価値を、もっと言えば存在意義のようなものを、自分たちの努力で高めそれで選ばれる会社になりたい」と考え、実行してきた。
そんなあるとき、取引先の1社、ある大手企業の支店から連絡があった。なんでも本社から「派遣会社の利用をやめよ」との指示があったとのこと。その理由は主に次のようなことだ。人出は常時不足しており、派遣会社を複数社使用しているが、「派遣されてきた人材はスグに辞める」「次の人材をスグに派遣してくるがやはりスグ辞める」「派遣会社の営業担当の知識も浅く、何を聞いても答えられない。後日回答もない」「派遣開始以来一度も顔を出さない。売りっぱなし」。そこで、「すべての派遣会社の利用を直ちにやめよ」となったのだが、これがきっかけで、他の派遣会社は指示通り終了となったが、同社だけは終了せず、逆に他社の分も契約が集中することとなり、売上は5倍になったのだった。
その理由は何だろうか?例えばその1つは、同社が行っている顧客への情報提供だ。「派遣のことはもちろん、労働や税、保険に関することまで、聞けば何でも答える。わからないこと、即答できないことは『宿題』にして後日必ず回答するという地味な当たり前の繰り返し」と社長は言うが、多くの会社がそこをできていないことは、この一件で明らかだ。また同社では、聞かれなくとも、例えば「同一労働、同一賃金への準拠」を資料にまとめて提供するなど日常的に行っているが、これが大変ありがたがられているという。
さらに同社では、派遣に至るまでの過程や、派遣後にも特色があり、それらもまた「選ばれる理由」につながっているが、どんなものだろうか。続きは次回に。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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