【川崎大輔の海外コラム】ミャンマーにおける中古車流通市場の展望
完成車輸入の解禁で中古自動車市場が拡大
ミャンマーでは2011年の民政移管の際に、政府は「経済開放と完成車輸入の解禁」の方向性を打ち出し、次々と具体的な自動車輸入許可の措置を取り入れていった。
2011年9月、政府はスクラップポリシーを発表し、完成中古車輸入を解禁。20年以上経つ中古車をスクラップにすると1996年以降登録の中古車の個人輸入が許可された。
さらに2,000cc以下の乗用車の輸入登録税を引き下げ、小型車の輸入を促進した。
2012年5月には「2007年以降に登録した車であれば中古車の個人輸入を可能」とした。
右ハンドル車の輸入も認められ、人気の高い日本製中古車の輸入が急増する結果となった。
貿易統計データによれば、2011年の日本からミャンマーへの中古車通関台数は19,621台で2012年には120,805台と、輸入量が急激に増加することとなった。
それにより、ミャンマー国内での強固な流通が構築できておらず、スムーズに在庫を販売できないこと、またミャンマーへの輸出増により、日本でのオークション価格が高騰したことなどの問題点が指摘された。
一方で、需要が増してミャンマー自動車市場が拡大してきたということは事実である。2014年のデータでは、商用車を含めた台数は160,437台である。
財務省の輸出台数に関する貿易統計では20万円以下の輸出車はカウントされていないために実際の台数とは異なっており、実質約18万台(乗用車12万台、商用車6万台)であると言われている。
日本からの中古車輸出の仕向地として第3位(2014)の規模で、すでに大きな中古車輸出市場へと急成長を遂げた。他国にも言えることだが、特にミャンマー政府の自動車施策は、自動車市場に大きな影響を及ぼしている。
ミャンマーにおける中古車流通市場
ミャンマーでは公的な自動車流通の統計はないが、自動車保有台数は直近で約60万台と言われている。
FOURINが出す1,000人あたり自動車保有台数(2013年)の推計値では、ミャンマーは9.4台。
他アジア諸国での1,000人あたり自動車保有台数(2013年)はマレーシアで394台、タイで207台、インドネシアで78台であることから、将来のポテンシャルは大きいと言える。
一方でミャンマーは、国内の保有台数のほとんどを日本からの中古車で賄ういびつな構造となっている。
ミャンマーでは、すでに本格的な新車販売がスタート。
しかし、国内の新車販売台数はまだ2,000台(2014)程である。
現状では、ミャンマー国内の自動車販売台数の95%以上が、日本からの輸入中古車販売となっている。
ミャンマーにおける中古車流通では、中古車ディーラーと地元のブローカーの流通経路で取引が行われている。
ヤンゴンにある有力中古車ディーラーへのインタビューによると、中古車ディーラーの販売はエンドユーザーへの小売と、ブローカーを中心とした業者への卸売がある。
中古車ディーラーの販売形態は在庫販売と受注販売だが、ブローカーでは委託販売も行っている。
最近ではヤンゴンにおける中古車市場がダブついており、マンダレーを中心とする地方からのブローカーが多くなってきている。
仕入の際は日本のオークションサイトを通じてミャンマーへ輸入されるのが一般的。エンドユーザーからの買取もあるが、数は少なく10%程となっている。
中古車天国ミャンマー・今後の動向
今後の動向としては、地方への中古車の流通という動きが加速するのは間違いない。特にミャンマー中古車市場はヤンゴン第2の都市・マンダレーへ拡大する。2015年に自動車市場調査でヤンゴンの某中古車ディーラーを訪問して、最近の中古車市場の傾向について話を聞いた。ヤンゴンで高級車の中古車を中心に合計5店舗を経営するオーナーは「最近は地方、特にマンダレーからのお客様が多い。中古車を購入してそのまま自走して持って行っている。今だとヤンゴンのお客様とマンダレーからのお客様は同じくらいの数」と言う。保有台数の7割がヤンゴンに集まっていると言われ、保有台数60万台のうち、約42万台がヤンゴンにある。ヤンゴンの人口を約600万人とすると、同エリアにおける1,000人あたりの自動車保有台数は70台。ヤンゴンを除く地方では、1,000人あたりの保有台数は3?4台である。ヤンゴンと地方では、このように大きな差があるのが明確だ。
ミャンマーで唯一の日系自動車メディア「カーサーチ」でのインタビューでも、地方への中古車流通業車の進出、拡大の動きを感じた。ヤンゴンの中古車ディーラー数は大小合わせて約160~170店舗である。現在カーサーチには全部で25社の、ミャンマーの中古車ディーラーが広告を載せている。そのうちヤンゴンのディーラーは16社、残りはミャンマー第2の都市マンダレーのディーラー(9社)ということであった。今まではヤンゴンへの一極集中型のいびつな自動車市場構成であったが、すでに自動車流通業者はマンダレーへの進出・拡大へと動き始めている。
もう1つ、重要なポイントがある。それは右ハンドル規制による中古車市場への影響である。2018年から「ミャンマーで走れる自動車は左ハンドルのみにしよう」と政府が動いていたが、2015年12月19日に突然、右ハンドル規制が出された。内容は「2016年4月以降に新しく自動車を輸入する場合は左ハンドルしか認めない」というものであった。
一方で、もともと所有していた自動車を買い替える場合は右ハンドルが可能であり、一時、ミャンマー国内の中古車価格が上がった。しかしながら中古車業界の圧力によって、2016年1月7日に再度その状況がひっくり返り、右ハンドル自動車が輸出できる状況に戻った。これは現政権の計画であり、市場が混乱する結果となった。NDLの政権は4月からスタートする。自動車は税収面でのインパクトが強く、多くの利権が絡むため不明な部分が多い。個人的な見解としては、中古車がマンダレーなどの大都市にまである程度普及したあとに、段階的に規制されていく可能性が高いと考えている。
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川崎大輔まで
アセアンプラスコンサルティング代表 川崎 大輔 Kawasaki Daisuke
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。現在、レスポンスコラム「川崎大輔の流通大陸」を連載。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。