【小阪裕司コラム第1話】売上は人の心と行動から生み出される
【小阪裕司コラム第1話】売上は人の心と行動から生み出される
これからこのコラムでは、実際の商売現場での実例を通じ、あなた自身が考え、結果を出していくためのヒントが語られる。
その実例は様々な業種業態のものだが、どれも大いに活用できる。
なぜなら、どんな業種業態においても、「売上」とはお客さんの「買う」という行動によって出来上がる、人の買い物行動の結果だからだ。
ではまず手始めに、ある雑貨と洋服の店での実例をご紹介しよう。
こんな出来事があった。 売り物の猫の貯金箱を一つ落としてしまい、耳が欠けてしまった。
接着剤で修理したものの、一見して破損がわかり、普通なら廃棄か捨て値で処分するところだ。
しかしこの店は違った。
定価のまま販売し、そこにこう書いたPOP(店頭販促物)を添えたのである。
「私はネコです。3月3日のひな祭りの日に交通事故に遭いました。右の耳を少しケガしましたが、お陰さまで元気になりました。こんな私ですが、可愛がってくれる飼い主さんを探しています。」
すると、これを見た50代の女性客が言った。
「このケガをした猫の貯金箱をください。」
店員が、傷物だが大丈夫かと確認すると、彼女はこう応えた。
「はい。交通事故にあったという、この子が欲しいのです。」
この店ではこんなことも起きた。
売り物の人形をまたまたうっかり床に落とし、足の部分が割れてしまった。
これも接着剤で修理し、添えたPOPにこう書いた。
「私は人形です。オリンピックを目指して体操の練習をしていました。 台から落ちて手足を負傷。手術は成功。夢は実現しませんでしたが、第2の目標で頑張ります。こんな私ですが、お友達になってくれませんか?」
すると今度は、ある女性客が店員を呼びとめた。
「この人形を2体ください。」
店員が、1体は傷物なので、1体しかないと言うと、
「いいんです。ケガした人形も含めて、2体欲しいのです。」
そして彼女は満足そうに、添えられたPOPごと買っていったという。
このような工夫は実にワクワク系(このコラムでお伝えしていく商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)的だ。 念のため申し添えておくが、私がここで言いたいことは、傷物をうまく売るテクニックではなく、POPの巧みな書き方の話ではなく、商売の原理に通ずることだ。
商売の成果は売上に表れるが、売上はお客さんの「買う」という行動の結果だ。
そして行動は人の心から生み出される。 先の2例は、その原理の一面を物語る。
商売とはかくも面白い、人の営みなのだ。
それは近年世界的に注目されていることであり(一昨年、その研究のひとつが
ノーベル経済学賞を受賞した)、あなたにやってほしいことは、ではうちの現場ではどうだろう、うちのあの商品ではどうだろうと、思いを巡らすことだ。
自分たちが売っているものの価値を大切にして、人の心と行動を軸に工夫を凝らす。
これからこのコラムで語られる商売現場の物語は、人の心と行動の科学に基づく、あなた自身の結果を出すための物語なのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。