【小阪裕司コラム第33話】「やりっぱなし」にせず生かすには
【小阪裕司コラム第33話】「やりっぱなし」にせず生かすには
先週、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、あるデイケアセンターからの報告をご紹介した。
昔からある地元情報誌を活用した取り組みだ。その事例を通じて、どんな広告が効果があるかの前に、それをやりっぱなしにしないで、仕組みとしてつなげていくことの大切さを説いたが、みなさんから少なからぬ反響をいただいたので、この連載の前身である日経MJ紙でのかつての連載から、前回につながる話をご紹介しよう。
ある畳店主からこんな話を聞いた。地元の商店主らと長年出し続けてきた合同チラシで最近、読者にプレゼントを行った。思いのほかたくさんの方が応募してくれ、抽選で若干名が当選した。
店主は思った。せっかく応募してくれた方々全員の名簿があるのだから、これを活用する方法はないものか。あくまでもプレゼントへの応募なので、勝手に自社のDMなどを送りつけるわけにもいかないが、なんとかお客さんとの接点として活用したい。
そこで店主は考えた。
元々応募者には、抽選の場合は広告主である自分たちが応募ハガキをひくと伝えてあったので、その一人である自分から、残念賞をプレゼントすればいいのではないか。しかもそれをお客さんの家までわざわざお届けすれば、いい接点となるのではないかと。
早速店主は残念賞の賞品を持って、応募者宅の訪問を始めた。呼び鈴を押し対応してくれる方に、プレゼント応募へのお礼を述べ、応募ハガキを広告主である自分が引き、残念賞を贈りたいこと、その賞品をお届けにきたことを伝えた。
すると意外なほどお客さんは喜び、好意的に対応してくれた。なかには家にあげてくれ、お茶をふるまってくれた方もいたほどだった。結果、多くの新規見込み客とのいい接点ができたのである。
畳店の単なる営業訪問なら、今日なかなか好意的に対応してはもらえないだろう。しかし応募したプレゼントの残念賞を届けにきたとなると話は別だ。またこの背景には、店主が地域と密着していることもある。
長年出し続けてきた合同チラシでは、セールス訴求よりも自らの似顔絵付きで世間話などを綴り、コミュニケーションを図ってきた。地元のお祭りなどでは太鼓をたたき、地域の人には広く知られている。
そうした背景があるからこその、ユニークな接点の作り方といえるだろう。
と、以前のコラムはここまでだが、これも「やりっぱなしにしない」ことによって、施策が活かせる一例だ。またこの事例の場合、今回のようなやり方が活きる背景となるこれまでの活動も活きている。
一つひとつの施策は、このようなことで、つながり、生きてくるものなのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。