【小阪裕司コラム第63話】商売は原点に還り、また始まる
【小阪裕司コラム第63話】商売は原点に還り、また始まる
先日、ふと思い出して振り返ってみた約10年前のコラム原稿に、商売の大先輩の講演を拝聴した話があった。今日はその原稿を題材にしたい。まずはその原稿をお読みいただきたい。
【ここから】先日お招きいただいたあるパーティーで、日本の商業を牽引してこられた大先輩らのスピーチを拝聴した。そこである方が、日本の商業にとってのこの50年をこう総括された。「それは産業化の50年だったと言える」。
50年前と言えば、日本が高度成長期を走り始めた頃だ。
そこから今日へのテーマは確かに産業化だったと思える。店舗のチェーン化や情報システムによって効率を上げ、商品回転率など数字を重視し、様々な手法によって産業化を進めた時代。
産業化が競争力にも、収益にもつながっていた。しかしその時代はもう終わったと、先ほどのスピーチは続いた。商業は原点に立ち返る時期に来ていると。
大先輩のおっしゃる原点回帰とは、価値創造時代の到来だと、私は思う。
お客さんを豊かにする売るべき商品やサービスを定め、その価値を伝え、心の中に価値を生む。それは新しい取り組みではあるが、商売の原点でもある。
私は、戦後の混乱期から高度成長期にかけて現場でバリバリ商売をやっていた方の話を聞くのが好きだ。それは、そういう方々の回顧が、たいがい価値創造の話であるからだ。
たとえばある地方百貨店の元オーナーの第一歩は、戦後始めた小さな化粧品店だった。
しかし開業時、化粧をしている女性は町にほとんどいなかった。化粧を必要とする人がおらず、誰も価値を知らないので、商品を陳列しただけでは売れない。
そこでまず化粧する価値を地域の人々に伝え、化粧品を利用してもらいながらファンを増やし、売るものを徐々に広げていったと言う。これはまさに価値創造の営みである。
これまで全国の仲間たちと価値創造を行い続け、つくづく思う。時代はそれを求め、お客さんは望んでいると。今こそ商売は原点へ還る。そして、ここからまた始まるのである。【ここまで】
と、この原稿は締められているのだが、今このコロナ禍にある商人たちと、大先輩たちの若かりし頃とは重ならないだろうか?それは社会の劇的な変化であり、「ゼロからの出発」だ。
社会やお客さんの意識、暮らしの変化に寄り添いながら、商品から売り方にいたるまで今までになかったものを創り出す。大先輩たちはそれをチャンスと捉え、試行錯誤を繰り返しながら、商売を営んでいた。
今もう一度言おう。今こそ商売は原点へ還る。そして、ここからまた始まるのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。