【小阪裕司コラム第65話】一枚のはがきが生み出すもの
【小阪裕司コラム第65話】一枚のはがきが生み出すもの
先日、ワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)に全社を挙げて取り組んでいるある住宅・リフォーム会社の営業社員さんから、ご自身の最近の取り組みのご報告をいただいた。
彼女が始めたことは、営業として担当している既存顧客にはがきを送ることだ。その趣旨は、建て替えやリフォームのセールスではなく、既存顧客とつながりを保ち、関係性を深めるため。全社を挙げてワクワク系に取り組んでいる、その一環としての活動だ。
具体的に行ったことはそれほど凝ったことでなく、はがきに自分の近況などを綴って送るシンプルなもの。
本人も、効果が出るとしても先のことだろうとのんびり構え、始めたが、第1回目の送付後、早々に手紙やメールによる数件の返事があり、なんとリフォーム工事の引き合いも1件発生した。
引き合いはその後、回を追うごとに発生したが、6回目にしてさらに驚くことがあった。
その月に発生した引き合いは4件あったが、そのうち3件が、ずっと音沙汰のなかった顧客からだったのだ。
お一人は、18 年前に工事をしてそれっきりだった方。二人目は、1 万円くらいの工事を15 年前にして、それっきりになっていた方。三人目は、ずっと前にセミナーを受講して、それっきりになっていた方だ。
この月に引き合いのあった方々の売上だけでも400万円となり、
この金額を思うと、やり始めてよかったと彼女は言う。
こういう活動を長く続けるとどうなるか。
この会社とは別の住宅・リフォーム会社では、同じ趣旨の活動を全社的に行って10年近くになるが、それにより、長い間年間1千万円ほどの売上で頭打ちだった既存顧客からのリフォーム受注が順調に伸び、今では年間1億円を超えるまでになった。
これらの事例の背景にあるものは、顧客との“つながり”、ワクワク系的に言うと“絆”だ。それが、目先にも、中期的にも、長い目で見ても、着実に収益を生み出すという事実だ。
その意味でもうひとつ大切なことは、この「はがきを送る」というシンプルな行為がこのような結果を生む事実を、彼女が自ら実践し、体験することで腑に落ちることだ。
絆は目に見えない。それもあって、絆作りに取り組むお店・会社は未だ少ない。それが「腑に落ちる」ことによってより積極的・能動的に行うようになり、その活動がまた結果を生んでいく。
この好循環を創り、社員各々がそうなっていくことが、会社の業績を長きに渡って安定させる大きな要因となるのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。