【小阪裕司コラム第90話】墓じまいのお客さんは「顧客」か
【小阪裕司コラム第90話】墓じまいのお客さんは「顧客」か
ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のある石材店から、「新しくお墓を建てられる方々ではなく、お墓をしまう方々との絆を作る実践をしてみました。
すると、早々に面白い結果が出てきました」とのご報告をいただいた。
言うまでもないが墓石とは、われわれ客側にとっては、一生のうちに一度買うか買わないかという商品だ。
ゆえに石材店としても通常「お墓を建てる方」を「お客さん」とみなす。
ワクワク系を実践する同店でも、これまでお墓を建てるお客さんとは積極的に絆を育んできたが、 墓じまいのお客さんとはそうではなかった。
しかしそこを今回、全面的に見なおしたとのこと。
元々同店は、墓じまいされるお客さんにも、後々後悔がないよう、後々のことをしっかり考え、時間をかけ、ときには半年、1年とかけて墓じまいを行ってきた。
工事中も、新規建墓と同様に工事写真を撮り、後々お客さん自身がお墓を見直したり、ご親戚や縁者に見てもらったりできるような工夫もしている。
お骨の行き場にも気を使い、お墓が無くてもお参りできるところをお薦めし、手元供養も勧めている。
そういう丁寧な仕事を背景に、建墓のお客さんと同じく絆作りも始めた。
ニューズレターを送り、「墓詣でワークショップ」などのイベントも案内。
絆ができてきたと感じられる方々には、近くに行ったら家に寄り、お一人暮らしの方な どにはお声がけするなど、様々なことを行っていった。
すると結果は早々に現れ、ニューズレター送付のお礼や感想のお電話をいただくように なってきた。
半年ほどもすると、墓じまいされた方から、同じく墓じまいを希望される お友だちを紹介いただくことも起こってきた。
そのお客さんからは、「自分の代でお墓を無くす後ろめたさから解放された」と言ってもらえたのだが、驚いたことは、そのお客さんから、請求金額よりも多い金額をいただいたことだ。
店主が、何かの間違いかと思い電話すると、「ほんの感謝の気持ちです。
心のつっかえをとってもらった上に、あまりにも良い方々にお仕事をしていただけたので」とのことだった。
その後も同様な嬉しい出来事が続き、今ではすっかり墓じまいのお客さんも「顧客」となっているとのこと。「顧客消滅時代」――これは拙著のタイトルにあるキーワードだが、そこには深い意味がある。
今どこに「顧客消滅」が起きているだろうか。どうすれば「顧客消滅」は起きないのだろうか。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。