【小阪裕司コラム第94話】「環境にいい」高級棺が売れるには
【小阪裕司コラム第94話】「環境にいい」高級棺が売れるには
今日は「お棺」のお話。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のある葬祭業の方から、お棺の価値創造についてのご報告をいただいた。
店主曰く、葬儀で使用するお棺は、全国的には木目調のお棺や白い布張りのお棺が主流。
様々なデザイン、色のお棺もあるが、8~9割は低価格のものが売れる。
その理由は、「燃やしてしまうものだから」。まして同社の地域は〝骨葬〟。告別式の前に火葬があるため、告別式では骨壺だけとなり、お棺が人の目に触れる時間が短い。
お棺メーカーが「骨葬地域は高級棺が売れないのは無理もないです」という地域である。
同社でも営業の工夫をしてきたものの、高級棺は売れていなかった。そこに新商品が入ってきた。
それは、強化段ボール製の高級棺。「釘を使わない、強化段ボールの環境にいい、やさしいお棺」である。
これまでも同素材のお棺はあったものの売れていたわけではなく、今回も店主は、売れそうにないなとまずは思った。
しかし一転、これはいけるかもと感じたのは、「環境にいい」とは別の訴求点、
「遺体を傷つけない」という点だ。そう感じたのは、同社が扱っている「土に還る骨壺」
のことがあったからだ。
同社の営業地域は、最終的に骨壺の中のお骨を出して土に還す。その骨壺はトウモロコシ原料のため土に還るのだが、「トウモロコシ原料の環境にいい骨壺」では全く売れなかった。
しかし訴求点を「壺ごとお墓に納骨すると、数年で壺も風化します。きれいに収骨したお骨をひっくり返して出さなくても大丈夫」としたところ、多くの方に購入してもらえるようになり、今では売れ筋に。
その経験と感覚で今回のお棺を見ると、いけるような気がしたのである。
そうして実際売り出してみると、狙いは当たった。
売り出してから1年経って前年と比べてみると、例年、販売するお棺の2割程度だった高級棺の売上比率が1割も上がった。このお棺、見た目は布張りの高級お棺とほぼ変わらないが、値段は4万円も高い。にも関わらず、である。
ワクワク系以前には、見栄えと価格でどのお棺が売れるかあちこち探していたと店主。
しかし今回の商品は、見た目は同じで価格は高い。「ご遺体を傷つけない」と言っても目に見えない火葬炉の中の話。
しかし今、商品説明を受ければ受けるほど、価値が伝わるかもしれないと思う自分がいたという。
そして骨葬の地域でも、実際、価値を伝えれば売れた。モノにフォーカスではなく人にフォーカスし、人がどう価値を感じるかを考えることが重要だとは、店主の談である。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。