【小阪裕司コラム第86話】お客さんが今待っていること
【小阪裕司コラム第86話】お客さんが今待っていること
前回、コロナ情勢下、ある漬物製造小売のお店が店頭で「そーっと静かにじゃんけん大会」を行っている話をした。そしてそれは、お客さんの心を温めるためでもあると。
この話には大変多くの反響をいただいた。
「お客さんの心を温める」とは、こういう心和むもてなしをすることだけではない。
一見「売る」という行為に見えるもののなかにも、心温まるものは多い。昨年お伝えした2つの事例を、この文脈から改めてお伝えしよう。
ひとつは昨年3月、ある酒店でのことだ。
店主からの報告にもあったが、昨年3月といえば、お客さんの心が一気に冷えていった頃。
店主は、お客さんの不安な気持ちに寄り添う趣旨で、普段から送っているダイレクトメール(以下、DM)に一言加えた。
宛名下のスペースには「新型コロナウイルスの騒動で世の中心配ばかりです…。どうかお互いお体に気をつけて頑張りましょうね。早く皆が安心できることを願ってやみません」。
セールスレターの表には、「こんなときだからこそ、心豊かに楽しく、あったかい時間を過ごしたいです。その一助になれば…」。
それにお客さんは反応した。来店客は通常の6倍。結果、家飲み需要が増えた背景もあるが、このDMで提案した商品群は、日本酒131%、ワイン122%、リキュール346%と大幅な伸びとなった。
また、和菓子店の次の事例もあった。
同店では例年4月下旬には、端午の節句に向け柏餅などの販売をしてきた。
しかし緊急事態宣言下、例年通りの案内をしたものかどうか躊躇していた。
するとお客さんから「GWって営業されますか?」との問い合わせが。
そこで、まずは普段からつながりを築いてきた絆顧客へお店が営業していることを連絡すると、ほとんどのお客さんが「休みかと思っていました」と買いに来る。
さらには予約も入り始め、この反応に安心した店主はSNSなどを通じ、「お客様のおうちじかんを、当店製造の柏餅などで、心豊かな一時をお過ごしください」との趣旨で、一斉にお知らせした。
その結果、ことさらに集客を図ったわけではないが、気がつくといつもより大いに忙しいGWに。
特に5月5日は次から次へとお客さんが来店し、休む間もない状態に。
結果、GW期間は連日前年を超える売上となり、5日にいたっては過去最高。トータルで前年比139%の売上となったのだった。
これらは一見「売る」行為に見えるが、その根にあるものは、単なる「売る」とは異なる。
そしてこれらの事例から読み取れることは、お客さんもまた、こうして「心温まり」、「心動かされる」ことを待っているということなのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。