【小阪裕司コラム第4話】絆作りを続ける理由

【小阪裕司コラム第4話】絆作りを続ける理由

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第4話】絆作りを続ける理由

先日、ある建設会社の経営者から大変貴重なデータをいただいた。
同社は長年に渡って、年数棟の注文住宅建築を中心に、リフォームや不動産事業などを手がけてきたが、近年のテーマは既存OB客(以前この会社で住宅を建てた方)からのリフォーム工事の受注拡大だった。具体的な数字を言うと、リフォーム工事の受注額は、年間約1千万円でずっと横ばい状態。
売上全体に対しても、低い割合で留まっていた。

以前は、リフォーム工事に関しては、「来ればやる」「必要ならば声がかかるだろう」というスタンスだったと社長は言う。
結果、外装改修や太陽光発電などの大型案件が知らぬ間に流出。
あるお宅にメンテナンスでうかがうと大きな電化機器が設置されていたり、「おたくは新築専門で、リフォームとかはやってないんでしょ」などと言われたりもし、危機感がつのっていた。
そこで彼が始めたことが、「既存客との絆作り」である。

ワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)では、業種を問わず、お客さんが個人でも法人でも、既存客との絆作りを重要視し、そのための具体的な活動を行う。

その理由はいろいろあるが、その最たるものはリピーターの確保、絆のあるお客さんだけが安定的にリピートするからだ。

それは、このようなケースでは、既存客から流出していたリフォームの売上を取り戻すことにもなる。

今回彼が行ったことは絆作り活動だけで、それも、われわれがニューズレターと呼ぶ、手作りのサークルの会報誌のような紙媒体を既存顧客に送るコミュニケーション活動だけ。
他に積極的なセールス活動はしていない。
それでも開始後3年目にはリフォームの受注額は倍増し、8年目には5倍に達し、その後も順調に推移している。

このデータが貴重な理由は、繰り返しになるが、リフォーム受注拡大のための手が、ほぼ絆作り活動だけだったことだ。
その推移を、開始後から8年間に渡って記録し続けたこのデータは、絆作り活動がいかに売上をもたらすかを雄弁に物語る。

と同時に彼も強調したことだが、8年目には5倍に達するこの売上の伸びが、絆作り活動初年度と2年目にはまったく見られなかったことも注意すべき点だ。

これは「絆作り活動がもたらす利益にはタイムラグがある」という絆作りの特質のひとつで、長年の多くの企業の絆作り実績を踏まえた、私の研究知見とも合致する。

単純に「絆作り活動はなかなか成果につながらない」と早とちりしてもらっては困るが、絆作り活動と利益との因果の複雑さゆえのことである。

だからこそ彼も言う。「続けていてよかった」と。
そして私はこのようなデータをいただくたびに思う。
このような貴重な足跡が、後に続く人たちにとっての、心のたいまつとなるのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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