【小阪裕司コラム第116話】コラボが持つ可能性と未来
【小阪裕司コラム第116話】コラボが持つ可能性と未来
近年、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)の中で盛んなことのひとつに、会員同士の「コラボ」がある。
その一例を言うと、例えば会員の中に、ほしいも農園がある。「赤ちゃんでも食べられるほしいも」を合言葉に、自然の堆肥・無農薬でさつまいもを栽培し、ほしいもに加工している農園だ。この安心・安全に加え、何より美味しいことから、全国の多くの会員がこのほしいもを扱うようになった。といっても、必ずしも食品店ではない。当会のサービス事業者の業種は多様だが、食品店という枠を超えて、様々な業種の方々がこのほしいもを扱っている。
また別の例を言うと、会員のあるお茶メーカーが製造している抹茶アイスがある。同社はこれまでも同商品を通常の販売チャネルに卸してきたが、会員内でのコラボでは、卸先はクリーニング店やブティックなど、これまでの卸先とは大きく異なる。そして、昨年から会員となり、現在コラボを推進している同社社長は、「クリーニング店なのに、これまでの卸先では考えられないようなスゴイ売れ行きで驚いています」と語る。
このようなコラボには深い意味がある。往々にして製造者や卸業者は、商品が食品ならば食品販売ルートに卸すことが当然、アイスはクリーニング店ではたいして売れないと思いがちだ。しかし実際には今日、売れるか売れないかは、良い顧客をどれだけ持っているか、その顧客にどれだけその商品の価値を的確に伝えられるかに因る。したがって、その両方ともを有する店なら、クリーニング店であろうとも驚くほど売れるのである。 また、このようなコラボはサービス業にとっても大いに意味がある。先のクリーニング店が象徴的だが、コロナ禍もあり、クリーニングは実需が減っている。この社会情勢は、私が会員によく使う言葉で言えば、「マーケティングが及ばないところ」だ。しかし彼の店では、たとえクリーニングの売上が減っても、その穴を例えばアイスが埋める。もっとも、目的は穴埋めではなく、顧客リストの収益性を高めることだが、高品質なクリーニングサービスを提供しつつ、それだけに頼らないビジネスモデルを作る。これは今日、ビジネスの持続性において重要なことである。
ワクワク系では、ビジネスは常に“人”を軸に考えており、“業種”ではない。その感覚を同じくする製造業者・卸業者とサービス業者とのコラボには無限の可能性がある。この可能性を一層広げていきたいものである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。