【小阪裕司コラム第161話】かくして桜は満開になった
【小阪裕司コラム第161話】かくして桜は満開になった
前回、“マスタービジネス”について、事例を交えてお話しした。商人のみなさんは意外と、「“マスター”と言えるほどの領域には達していません」「どのレベルまで高めれば、そう言えるようになるのでしょうか?」とおっしゃるが、「マスターになる」とはそれほど大げさなことではなく、ご本人たちがすでにそうであることに気づき、その道を意識して歩むことが大切なのだと。そうして歩んだ先にどんな世界が待っているのか、今日はその具体的な例をお話ししよう。
ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、ある靴店からのご報告。同店はこの度めでたく10周年を迎えた。会員歴の長い会員さんゆえ、私も10年前の苦労をよく知っている。よくぞ10周年と嬉しい気持ちになったが、店主自身、10周年を迎えるにあたって何をやろうかと思案した。
よくあるのは「10 周年記念大セール」や「大創業祭」…しかし、どれも自店にはそぐわない。そこで、セールやプレゼントなどお客様に喜んでもらうのではなく、この際お客さんに祝ってもらおう、 それも何かうちらしいやり方で出来ないだろうか?と考えた。そこで思いついたのが、ちょうど季節は春、桜の季節であり、同店のある町は桜並木が有名。「桜の花びらにお祝いの言葉を書いてもらって、それをウインドウに貼ろう!」ということだった。
となればと、毎月送付しているニューズレターでお客さんに呼び掛け、返信用の桜色のはなびら用紙と封筒を同封すると、続々と返信が。わざわざ店まで持って来てくれる人も多く、店のウインドウは、お客さんからのお祝いのメッセージ入りの大量の桜色のはなびらで、まさに満開の桜のごとく埋まったのだった。 そして、ここで私が着目したのは、そこに描かれていたお客さんからのお祝いの言葉だ。「少しずつ足の知識を身につけています。そして気がつけば足元から健康を考えるようになっていました」「ウォーキングの大切さを思い知らされました」「70才にして初めて足のケアーの大切さを教えていただきました」――多くのお客さんは彼らに何を教わったかを感謝の言葉と共に綴っていた。さらにそれらの言葉の多くは、次のような言葉で締められていた。「〇〇(店名)は町の宝です。ぜひこれからの10年も歩んで下さい」。
同店は靴店だ。そこはお客さんにとって「靴を買う場」だ。しかしそれ以上に店主らはお客さんにとってマスターだ。これこそがマスタービジネス、そしてその先にある世界なのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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