【小阪裕司コラム第22話】落語会や卓球台のある霊園

【小阪裕司コラム第22話】落語会や卓球台のある霊園

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第22話】落語会や卓球台のある霊園

前回、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のある石屋さんの事例を取り上げた。
今回はまた別の石材店、製造業ではなく小売業の方の石材店だが、今度は
霊園の運営も行っている石材店のお話だ。

霊園の運営も行う石材店は多くはない。同社が運営を行っている霊園は2939区画の広さ、現在そのうちの約1200区画が販売済み、そのうち建墓済みのお墓が約1000基という状況だ。約15年前から「日本一お墓参りの多い霊園をつくる」という夢を掲げてきた同社だが、そのために今どんなことをやっているか。

ざっと挙げてみると、顧客とのコミュニケーションを持続させるために定期刊行物(毎月送付のニューズレター)を発行、近隣の優良店舗を紹介。

園内にはカフェのような広い休憩スペースを設け、無料のホットコーヒー、書籍・雑誌の設置、輪投げなどの遊具の設置、キッズスペース、アクアリウム、グラノーラ販売、ジェラート販売と、多様なサービスを拡充。近日中には、卓球台も設置されるとのこと。

さらにイベントも数多く、万灯会、餅つき大会、お月見会、飾り巻き寿司教室、蕎麦打ち教室、落語会、写経会、ミュージックライブ、ヨガ教室など。夏休みに行う親子ワークショップには、300人以上の来場者が。

他にも、制服バンクの受け取り場所を引き受け、自転車の貸し出しも行う等、とにかくこれでもかと「来てもらう」ことに全力を傾けている。

今挙げただけでも大変な充実ぶりだが、これらはまだ一部、そのユニークさと盛況ぶりが話題となり、地元新聞の1面を飾り、さらにはそれが地方の新聞にまで取り上げられる事態となっているのである。

これだけのことをやれば、手間も相当かかる。
しかも、人が来るからといって墓石がそうそう売れるわけではない。
ではなぜ同社はここまでやるのか。社長は言う。

まず「売って終わり」という業界のありようを変えたいと。
またこの場が、人が“集まる”場所となり、コミュニケーションが深まり、みんながこの場のファンとなってくれれば、そのファンコミュニティをベースに、商売はいくらでもできるのではないかと。

今日、お客さんが来てくれないと悩む店は多い。しかしそう悩む一方で、いつもながらの売り場を作り、いつもながらのチラシを打って、あとは待っているようなことはないだろうか?

彼らは霊園という来店頻度が低い業種にありながら、最低でも月に1度、多い人は毎日来てくれるような場を目指し、それを果たすため、これだけのことをやっている。

そうしてファンコミュニティができれば、実際に商いに、彼の言う道は開けていくのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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