【小阪裕司コラム第276話】ピンチの時こそ
【小阪裕司コラム第276話】ピンチの時こそ
今回は、会社のピンチの時、普段からの絆作りがモノを言う、というお話。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、ある和菓子店からのご報告だ。
この夏、同店に二つのピンチがやってきた。一つは、直営店を担当している母親の手術入院。二つ目は、餅つき器の故障だ。同店のある町ではお盆期間に生の餅を食べる風習があり、毎年夏にも餅つき器は欠かせない。その需要のメインは8月13日なのだが、その前日の、突然の故障だった。
店主は今回のピンチにあたって、どちらもお客さんに伝える必要があることと判断、それは〝自己開示的〟に行うべきだと考えた。「自己開示」とは文字通り「自分を開いて示す」ことで、ワクワク系では顧客との絆作りに欠かせない活動だ。普段は、家族で旅行に行ったことやこんな映画を観てこう感じたなど、当たり障りのない、それでいて人となりが感じられるようなことを、SNSなどを通じて発信する。ただ今回は、当たり障りのない話ではないし、明るい話題でもない。
しかしだからこそ、と店主は思った。そこで、母親の入院については、同店の公式LINEで大々的に報告。すると、公式LINEを始めてから過去一番の反応が。お客さんの気づかいの返信なども多数いただいた。また、遠方の常連客がこの報告に反応して何度も来店されたり、以前同店で働いていた方がお見舞いを持って来てくれるなど、様々な方に支えられていることを実感する機会となった。
二つ目の餅つき器の故障は、あまりにも直前の出来事だったため、来店客へ口頭で説明。皆さんご理解いただき、その後数回ご来店くださる方や、陣中見舞いとして高級葡萄までいただき、こちらも、お客さんに応援されていることを実感したという。
ちなみに餅つき器の故障対応は、まずは菓子仲間や取引先に相談。並行して中古を探すも、お盆期間ゆえ業者さんとは連絡が取れず、仲間の助言で、近所のホームセンターへ。そこで少量ながら使えそうな餅つき器を購入し、まったく対応ができないという最悪の事態は免れた。その後は、これまた仲間の紹介で、修理となったという。
「以前でしたら、何事もなかったように営業を続けることがプロである、そんな硬派な考えでした」と店主は言う。でも今はピンチも開示できる。それはお客さんや仲間との絆があるからだが、図らずも今回、改めてその絆も実感できた。どんなときも、絆がモノを言うのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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