【小阪裕司コラム第343話】100均のチョコレートでも

【小阪裕司コラム第343話】100均のチョコレートでも

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第343話】100均のチョコレートでも

 前回、表札を取り付けるという工務店にとっては何でもない日常作業が、お客さんにとっては大切な儀式となり、思い出深い体験となる話をした。今回も同様の事例をお話ししよう。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のある美容院からのご報告だ。

 ある日のこと。常連のあるお客さんが、子供を店に連れてくるという。カットのためだ。聞くと、「4歳の長男がとにかく髪を切るのをいやがって、仕方なく寝ている時にカットしている」とのこと。店主らは「美容室デビューですね!」と応じたが、ご主人いわく、「あいつ、1日で3軒の美容室で暴れて断られたことがあるんですよ」。

 店主らには一抹の不安がよぎったが、昨年末行った、店主がサンタクロースに仮装したイベントにも参加してくれた子だ。不安より、彼にどう自店を楽しんでもらい、美容室を好きになってもらえるかを考えた。そこで、3歳の子供を持つスタッフに、「100均で何か喜んでもらえそうなものを買って来て」と頼むと、裏に日付と名前が書き込める金メダルの形をしたチョコレートを買って来てくれた。当日はこれを表彰式的に渡そうと考えたのだった。 

 当日、幸いなことにその子はおとなしくカットさせてくれた。そこで終了後、「よく頑張ってくれたので、表彰します!」と言って、金メダルを首にかけてあげ、スタッフと共に拍手した。お母さんも一緒に拍手しとても喜んでくれたのだが、驚いたのは、この子が暴れた時のことを考え、あらかじめ「大騒ぎになるかもしれませんが…」と伝えておいた店にいる他のお客さんが、シャンプー中にもかかわらず、一緒に拍手してくれたことだった。 店主らは言う。この子がおとなしくカットさせてくれたのは、昨年末のイベントに来てくれて、少し自店を好きになってくれていたからだろう。

 そして、今回他のお客さんが拍手してくれたのは、彼女らにとってもこれが心温まる体験だったからだろうと。ちなみに、拍手してくれたお客さんに店主らがお礼を言うと、こう言ったそうだ。「あの子にとって、この店は温かくて居心地のいい場所なんでしょうね」。

 今回店主らが行ったことも、前回同様ささやかなことだ。しかし、このご家族には特別な体験となり、たまたま店にいたお客さんらにとっても特別な体験となった。そして人は、大人子供に関わらず、こういう店を好きになるのである。また、実はこの話、10年ほど前にいただいた報告なのだが、こういった現象は今も変わらず、実践会員の現場で起き続けている。人の本質は変わらないということである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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