【小阪裕司コラム第43話】改めて感謝の気持ちを伝えると
【小阪裕司コラム第43話】改めて感謝の気持ちを伝えると
絆が育まれた顧客コミュニティは、企業にとって強固な経営基盤だ。その「強固さ」は、現在のような社会情勢になると、一層際立つ。
もちろん、平時にもその強さとありがたさを感じる機会は多くある。あるワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)のクリーニング店からのご報告だ。
同店は3月に創業記念日があり、毎年記念イベントを開催する。ガラポンやダーツ、子どもが遊ぶゲームなど、毎年趣向を凝らしてきた。
しかし今回は考えた。
クリーニング店を支える存在は、まずはクリーニングを利用してくれているお客さんだ。趣向を凝らした企画もいいのだが、ここは改めて、この方々に改めて感謝の意を伝える機会にできないか。
そこで、まずは顧客名簿を売上の高い順に並べた一覧を作り、上位から一人ひとり利用内容をチェック、クリーニングの利用が多い方を抽出した。
その数、254名。
次に、その方々に向け、継続してクリーニングを利用していただいていることに感謝の気持ちを伝えるために手紙を書いた。和紙を使い、1枚1枚に個々の名前を入れ、春らしくピンクの封筒に、500円分のクリーニング券を同封し発送した。
そして、創業記念日から3日間は、感謝祭として、来店していただければ、ケーキや飲み物でちょっとしたおもてなしをしたいとお伝えした。
行ったことは、物珍しいイベント企画でも、プレゼント企画でもなく、これだけだ。
しかし、お客さんは大きく動いた。
創業記念日から3日間、お客さんはまったく途切れることなく来店した。結果、前年の3日間と比較すると、売上は約2倍になっていたのだった。
店主は言う。ワクワク系を長く実践していると、来店してもらうためには何が良いか、どんな動機を作るかなど考えるクセがつく。それはよいのだが、その思考はとかくイベントの内容や面白い企画に向かいがちだ。
しかし今回のように、ただ単に感謝している気持ちを伝えることでも人は動くのだと、改めて気づかされたと。
「お客さんを個別に認識し、それにあった対応をしていくことが、これからの商いにはとても大切なことではないかと再確認した出来事でした」。
常日頃から支えてくれているお客さんに感謝を伝える。それだけでも、日頃から絆を感じているお客さんにとっては、十分に足を運ぶ動機になる。
同店で言えば、そこに確かな技術に裏付けられた常日頃からの質の良いクリーニングサービスが重なり、とりわけその利用客にとっては、感謝に感謝を返す気持ちになる。
そんな強固で幸せな商いの姿が垣間見えた3日間の出来事である。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。