【小阪裕司コラム第45話】今何を売るか、この先何を売っていくか
【小阪裕司コラム第45話】今何を売るか、この先何を売っていくか
今、私が主宰しているワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)では、この新型コロナ情勢下における様々な取り組みや、起こっている出来事について、続々報告が集まっており、それぞれが実に示唆に富んでいる。
そのなかのひとつをご紹介したい。北海道で食品スーパーを営む方からのものだ。
2月末、北海道知事から「緊急事態宣言」が発令されたのはまだ記憶に新しい。外出を控えるようにとのことで、一時、食品スーパーには人が集中した。
彼曰く、このとき一般のスーパーは、特売のカップ麺・冷食・お米・飲料が売れに売れて、昨対比130~150%となっているようだった。彼のお店仲間も、そこまでは行かなくても売れている様子。
しかし彼の店は、これまでこだわり商品の充実に力を入れ、どこの店でも売っているような商品や価格訴求品の扱いを絞り込んでいたこともあり、そういう買い物客はほとんど来店せず、売上にはまったくと言っていいほど影響のない状況だった。
それが、3月中旬に緊急事態宣言が解除になった時から、じわじわとお客さんが増えてきた。
そして、なかでもこだわり品の売上が、以前にも増して格段に良くなっている状況だと言う。
それでも、飲食店への納品や小中学校の卒業イベントの中止が大きく、今年の売上数字は去年には到底及ばないのだが、こだわり品に関して言えば昨年対比で1割以上の伸びで、この状況を見る限り、自店の路線はこのまま行けばいいのかなと思っているとのこと。
この報告から、何が読み取れるだろうか?
「外出自粛」となったとき、人が買いに走ったのは「必需品」。それは全国、同様の事態が起こる場所では、やはり同様の行動が起こる。対して同店はそこには力を入れていないゆえ、お客さんも同店には買いに走らない。
ならばそういうときは必需品を売るとよい、という考えももちろんある。そこでもうひとつ見逃してはならないことは、彼が力を入れ続けているこだわりの品の売れ行きが、その後、戻るどころかさらに伸びているという事実だ。
人は生きるために買い物をする。
ここでいう「生きる」とは多くの意味があり、「生命を維持する」から「より心豊かに生きる」まで幅広い。その「生きるための買い物」の幅広さはもちろん食品にも当てはまる。
そして我々が常々考えなければならないことは、自分の商売や仕事はどの道を行くのかということだ。「今何を売るか」だけでなく、「この先、自分は何を売っていくか」。
今回の事例からは、そんな商いの深い問いを解くヒントが垣間見えるのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。