【小阪裕司コラム第64話】仕切り板が仕切り板に見えない力
【小阪裕司コラム第64話】仕切り板が仕切り板に見えない力
先日、都内で飲食店を営んでいるワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)の会員さんからあるご報告をいただいた。
そこには5月以降の様々な取り組みが書かれていたのだが、そのなかにとりわけ関心を引かれたものがあった。それは、感染拡大防止のために店内に置かれた仕切り板だ。
今やみなさんもあちこちで目にするであろう、仕切り板。そのほとんどは無色透明のものだ。その真意は本来なら無い方がよいものであるということで、できるだけ存在しないかのようにしつらえるには、無色透明がよいということになる。
しかしこの店のものは違った。仕切り板が黒板なのである。
その仕切り板は、報告書の写真を見ると、カウンターの上に並んでおり、黒板ゆえ向こう側は見えない。そしてそこに、A4サイズくらいの掲示物が6枚も貼ってある。
これについて店主は、「他のお客さんとの仕切りととらえるとあまり楽しくならないこの仕切り板を、LINEのお友達登録につながるように考えて展示しました」と書いており、「このPOP がついた仕切り板は評判もよいみたいで、順調に会員数ものびております」とあるので、お客さんにも好評、狙い通りにお友達登録数も伸びているようだ。
私がここで着目した点は2つある。ひとつは、彼が仕切り板ひとつにも、「他のお客さんとの仕切りととらえるとあまり楽しくならない」と思い、ではどうしたら楽しいものにできるだろうかと考え、実行したことだ。
そういう意味では、彼には仕切り板が単なる「仕切る板」には見えていない。それもまた、お客さんに楽しく過ごしてもらうための機会であり、装置なのだ。
もうひとつはその仕切り板を、「LINEのお友達登録が増える仕組み」として捉え、ではどうしたらいいかを考え、実行したことだ。ワクワク系では何でも「仕組み化」する。
今回で言えば、お客さんが自動的にLINEのお友達登録をしてくれるよう、6枚の掲示物の内容を、読んでもらう順番も含めて考え、設置する。
そして狙い通りならお友達登録数は増えるわけだが、今回そうなっているということは、狙い通りに仕組みが稼働していることになる。
ワクワク系では「考えるクセ」をつけ、いつも「いかにお客さんを楽しませるか」を考える。またそれが結果的に顧客増・収益増につながるよう、仕組みも作る。そういう日頃の営みが、今回のようなコロナ禍でも生きている。
今回の彼のように、仕切り板が単なる仕切り板に見えない商脳を養うこと。
それがコロナの時代を生き抜いていく力ともなるのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。