【小阪裕司コラム第85話】そーっと静かにじゃんけんを

【小阪裕司コラム第85話】そーっと静かにじゃんけんを

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第85話】そーっと静かにじゃんけんを

年始早々の関東1都3県の緊急事態宣言。関西圏などにも広がりそうな情勢だが、どんなときも、商人はお客さんの心を温められるような存在でありたい。そのことを改めて思わせてくれる事例を今日は紹介しよう。

ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)の会員の、ある漬物製造小売業・店主からのものだ。

それはとてもシンプルな取り組みで、お客さんが同店で買い物をする際、じゃんけんをする。

勝った方には「勝利の証」として、そう書いたシールが貼られた小さなカップに入った生姜の漬物を、負けた方にも「勝たせていただいてありがとうございます」など理由をつけて同じ漬物―こちらはシールなしだが―をお渡しする、というものだ。

この取り組みがコロナ禍らしいところは、大きな声を出さないところだ。普通この手のものは賑やかに行う。

しかし今この店は違う。会計を済ませると、そーっと無言でA4サイズのPOPが出てくるのだ。そこに書かれている文字は「いきなりですが…、静かに、優しく、じゃんけんゲーム」。

するとお客さんも静かに応じ、お互い静かにじゃんけんが始まる。こういう趣向なのだが、お客さんには大好評。勝っても負けても、お客さんは必ず笑顔になり、そのままハッピーにお帰りになるそうだ。

このじゃんけんゲームの意図は2つある。まずは売上作りの方で、この漬物は試食してもらわなければなかなか売れない類のもの。

しかし感染対策上、これまでのような試食は難しい。
しかしこの方法なら確実に試食してもらえる。そうすれば買いたくなる人は多いだろうと見込んでいたが、大当たり。

半年間の数字を見ると、小さいパックの方が前年比約7倍。
大きなお徳用パックでも前年比約5倍の売上となった。

もうひとつの意図は、店主の次の言葉に凝縮されている。
「(このじゃんけんゲームで)お客様の心の温度も上げられたと思います」。

コロナ禍で、ただでさえもお客さんの心は冷えている。
そこに緊急事態宣言となれば、関東の方でなくても心が冷える。

こんなとき、お店にできることのひとつは、お客さんの心を温めることだ。
そして、それを行うのにおおげさな仕掛けは要らず、このようなちょっとした工夫と思いだけでいい。

どんなときも、私たち商人はお客さんの心を温められる存在でありたい。それがこのご時世、とりわけ大切なことだと思うのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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