現実直視の“勇気”を持つ
(※このコラムは、2017年9月のマンスリーレポートに掲載されたものです。)
成功体験という魔物
1話でご紹介しました会社は、理念を掲げることで、自分がやろうとしていることへの確信、何としても成し遂げたいと思う情熱、そして、 実行することによって必ず良くなると思う信念を整理することができました。 しかし、この域に達するには大変なご苦労がありました。
一番の障害は過去の成功体験です。実父の会社を承継する前から店長として業務にあたっていた現社長は、当時の経営手法を見て育ったため、“他店よりも安くする”、“チラシを多くばら撒く”ことさえしていれば、車は売れるという考えを強く持っていました。事業承継し、業績が低下しつつあるときも、“他店よりも高いのかな?”“チラシの量が少ないのかな?”と考え、更に「安価で買える店」を定着させるために、チラシの量を増やしていきました。それでも販売数量は増えません。思い悩んだ結果、“整備という機能が無いから顧客が逃げるんだ“という結論に達し、早速行動を起こし、指定工場を併設。 更に、商品バリエーションを増やすために、新車販売増の施策や低価格に特化した中古車で販売数量を増やそうと、AA仕入れを拡大し、チラシの量を更に増やし、低価格で在庫回転速度を高めようと努力してきました。がむしゃらに手を打ちましたが、それでも販売数量は増えません。むしろ頑張れば頑張るほど業績は低迷し、ついに赤字に転落。出口の見えない闇を彷徨う状態になってしまいました。
一体何が悪かったのか?時代の流れでユーザーの嗜好が変化した、ニーズにあっていない車両の仕入れ・展示が増えた、広告宣伝方法が短絡的、などなど、色々な理由があり、どれも正しいと思います。
しかし、このような十把一絡げの話ではなく、現実に商売を営むこの会社にとって最も足りなかったことは何か?と突き詰めていくと答えは簡単。“成功体験が邪魔をして、顧客一人一人に向き合っていなかった”これに尽きます。
ただ、そうなってしまったとしても無理もありません。経営を安定させようとすれば、最低1000件の“顧客”が必要というのが一般的な考え方の中、この企業の顧客は600件程でした。1000件の顧客基盤獲得を実現するのに、新規客を手っ取り早く増やすしかないと考えるもの至極当然。だから、新車や低価格車で販売数量を増やし、その受け皿として整備工場を併設しながら離脱しないように食い止めようとしたのです。
現実を直視する勇気を持つ
されど、“私達を必要として頂けるお客様が600件もある”という発想があればどうでしょう?お客様との対話を通じて、乗替えやご紹介など地道に実行していけば、3年もすれば、確実に積み重ねていくことができたに違いありません。
数多くの車両を仕入れて在庫し、大量に広告宣伝にお金を掛ければ、地域や競合店からみても大型店並みの規模、繁盛店というイメージを持つでしょう。同時に、実行している会社も次第に麻痺して、実態とはかけ離れた“繁盛店のイメージ”から自分自身も抜け出せなくなってしまうのです。
この会社では、自社の強みとは何かを考え尽くした結果、“顧客こそ最大の経営資源”であるという答えが見つかりました。顧客への感謝の気持ちが芽生え、従業員にも感謝の気持ちを持つことが大切であると気がついたときから快進撃が始まり、気がつけば、顧客からの乗替えだけで、業績は2倍になりました。それだけではなく、紹介のお客様も毎月確実に増え、経営が安定し始めたのです。
ここで私達が学びたいのは現実を直視する勇気を持つことです。業績、規模、会社の風土、従業員の成長度合い、理念、お客様からの評価・・・等、自社の実態を直視する、つまり受け入れることだと思います。言葉では簡単ですが、これが実に難しいのです。現実は酷ですから、見たくない現実も顕れます。しかし、この見たくない現実から逃げていては、未来はありません。過去の選択が“今”ならば、今の選択が“未来”を創ります。
物事はコインの表と裏の関係
物事は表裏一体。長所が短所にもなれば、短所が長所にもなります。いわば、コインのようなものです。裏の無いコインなど存在しないように、物事も悪いことばかりではありません。過去に悔やまれることがあったとしても、その時点では、正しい選択だったわけで、嘆く必要は全くありません。今の現実を全て受け入れたうえで、「いま大切なこと=目標」に勇気をもって取り組めば、必ず未来は明るい方向に変わっていくものだと信じます。
浜口 隆 Hamaguchi Takashi
自動車業界をはじめとした様々な業界における業態開発、マネジメント、経営コンサルタント等、多岐に亘るキャリアを経て、2006年のカーリンクチェーン発足時からSV(店舗指導)の中心メンバーとして活躍。
自動車整備業、サブディーラー、中販店、カーディーラー、SSと様々な加盟企業を担当し、SV業務を推進する一方で、オーナーの要望に応える中で各企業の組織全体の人材育成や業務改善等の支援活動を行い、次々と組織力強化を実現している。