【小阪裕司コラム第149話】駅で重さ3キロのお地蔵さんが売れる理由1
【小阪裕司コラム第149話】駅で重さ3キロのお地蔵さんが売れる理由1
面白い実践のご報告をいただいたので、ここで共有したい。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のある墓石店からのものだ。
その実践とは、駅の商品展示スペースで、石のお地蔵さんを売ったというもの。「石のお地蔵さん」と言っても、手のひらサイズの雑貨的なものではない。重さ約3キロのしっかりした作りのものだ。石の手加工技術者でもある店主が、石から自ら彫り上げた逸品。お値段は8万8千円である。
さらに興味深いのは、このお地蔵さんが売れたのが彼の店ではなく、駅の展示スペースだったことだ。「駅の展示スペース」というのは、ちょっと想像してみていただきたいのだが、町でしばしば見かける、JRや私鉄、地下鉄の駅通路にしつらえられた、ショウウインドウ的なものだ。よくその地域の物産的なものなどが展示されているが、言っては何だがしつらえも照明も地味なものが多く、ほとんど誰にも注目されることなく、その前を多くの人がただ通り過ぎている、そういうものに近いスペースだ。今回は、そこに展示されている商品を誰かが買おうと思えばその場で買えるシステムになっており、そこに店主が展示したものが、石のお地蔵さんと石のブックエンドである。
果たしてこんな場所で、石のお地蔵さんとブックエンドが売れるだろうか? しかし実際には、展示してほどなく売れた。しかも2つとも。特にお地蔵さんには、展示スペースの運営会社も「平均販売単価千円の場所で、8万8千円のお地蔵さんが売れるなんてすごい」と驚いていたとのこと。しかし店主はクールに言う。「すごいのではなくて、買いたい気持ちになって買える金額だったのだと思います」。
ワクワク系には「2つのハードル理論」というものがある。私が拙著『「買いたい!」のスイッチを押す方法』(角川ONEテーマ21)に書いたものだ。そこでは、人は「買いたいか・買いたくないか」のハードルをまず越えないと「買う」ことはなく、さらに「買えるか・買えないか」のハードルを越えてはじめて「買う」が起こる、と説く。つまり、彼がクールに語るのには理由があり、そもそも彼は石のお地蔵さんを単に「展示」したのではなく、「買いたい」の気持ちが起こるように考え、さらに「買える」となるように考え、売り場を作った。その然るべき結果として「買う」が起きたのだ、と言いたいのだ。では彼は具体的に何をやったのか。続きは次回に。
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