【小阪裕司コラム第145話】お客さんを教育する
【小阪裕司コラム第145話】お客さんを教育する
前回、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のある沖縄料理店の、「ゴーヤーチャンプルー」リニューアルの顛末をご紹介した。「コスパが悪くなった」との指摘もあった同メニューだが、ここで重要なのはコスパが良い悪いの以前にある、価値を伝えることの大切さだ。
改めて言うが、人は価値をどう認識するかで、「適正」と感じる価格は変わる。価格そのものよりも、価値の伝え方と内容が問題だ。だからこそ店主が、コスパの指摘をきっかけに、「自分たちがなぜこのようなゴーヤーチャンプルーを出すことにしたのか」をメニューに書いていないことに気づき、積極的に伝えることにしたことには意味がある。
これは、価値を伝える際に見落としやすいことでもある。今回店主は、「究極のゴーヤーチャンプルー」のために厳選した食材については、ゴーヤーをはじめ、卵、アグー豚、島豆腐など、すべてどこのどういうものか由来を書いた。つまり「このメニューがどんなものか」は発信していたのだ。しかし「なぜこのメニューを出すことにしたのか」は見落とした。人に価値を伝えようとするとき、この「なぜ」に関わる情報は重要なのである。
さらに、このエピソードからはもう1つ重要なことが学べる。それは、価値を伝えることを通じて、お客さんを教育することの大切さだ。今回のリニューアルの背景には、沖縄の郷土料理であるゴーヤーチャンプルーに、多くは沖縄県産の材料が使われていないことがあった。それはコストに因るものだが、その事実、そして高価な食材はなぜ高価なのか、どこに顧客体験としての差があるのかなど、買い手は知らないことばかりだ。それを知らせることなく価格だけが上がれば、買い手には価格の情報しか入らないゆえ価値が認識できず、「コスパが悪い」となる人もいる。そこでその価値を教える「教育」が必要なのだが、この課題はもちろんゴーヤーチャンプルーに限ったことではない。
価値あるものを正当な対価で売り、そのことでさらに顧客の支持を受ける――それこそが今、そしてこれから、中小企業や小さな店舗の多くが生き残っていくための必須条件だと私は思うが、どうだろうか? そのために不可欠な活動のひとつは、価値を伝えること、それを通じお客さんを教育していくことなのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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