【小阪裕司コラム第144話】このコスパは良いのか悪いのか
【小阪裕司コラム第144話】このコスパは良いのか悪いのか
先日、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のある沖縄料理店から、最近リニューアルしたメニューに関するご報告をいただいた。それを高く評価してくれるお客さんと、「コスパが悪い」と断じてしまうお客さんとがいらっしゃるという。
同店では最近、定番メニューであるゴーヤーチャンプルーをリニューアルした。使う食材を変えたのだ。実は、多くの店のゴーヤーチャンプルーには沖縄県産でなく、海外産食材が使われている。なぜかといえば、価格の問題。沖縄県産の半額以下なのだ。しかし元々沖縄が好きで始めたこの店。店主は今回のコロナ禍で改めて沖縄食材の素晴らしさを再認識したと言い、ならば定番メニューのゴーヤーチャンプルーこそ、こだわりの沖縄県産食材を使い、「究極のゴーヤーチャンプルー」を作り、提供したい。そこでリニューアルに踏み切った。
食材を吟味し、究極のメニューは完成。メニューにはゴーヤーをはじめ、卵、アグー豚、島豆腐など、すべてどこのどういうものか、由来を書いた。そうなると、問題は価格だ。これまでと同じ価格では原価が高くなり過ぎる。これまでワクワク系を学び活用し、メニューを見直し、ときに開発し、そこに適正価格をつけることを行い、顧客に支持されながら客単価を上げてきた店主、今回も適正価格として「1500円」の値をつけた。
するとある日来店客から、ネットに次のような感想が寄せられた。「コロナ前はよく利用していたこの店に久しぶりに行くと、コロナで厳しいせいか、価格が激変。コスパが悪くなったので、残念ながらもう行かないでしょう」。
店主は考えた。コロナ後、価格を大きく変えたメニューは1つだけ。それはこの究極のゴーヤーチャンプルーだ。実際このメニューも、リニューアル後も好評でコスパは気にしていなかったが、メニューに「自分たちがなぜこのようなゴーヤーチャンプルーを出すことにしたのか」は書いていない。そういう作り手の主張は敬遠される原因になるかもとも思ったが、この出来事以降、積極的に伝えることにしている。
このメニューはコスパが良いのか悪いのか。その判断の前に考えてほしい重要なことの1つは、価値を伝えることの大切さだ。実は人というものは価値をどう認識するかで、「適正」と感じる価格は変わる。価格そのものよりも、価値の伝え方と内容が問題なのだ。そこでは見落としやすいことがある。この続きは次回に。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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