【小阪裕司コラム第225話】お客さんを巻き込んで遊ぶ1
【小阪裕司コラム第225話】お客さんを巻き込んで遊ぶ1
最近、世の中のお店や商人から「遊び」の感覚が抜け落ちてきているように感じている。前回まで連続で「お店はスペクタクルだ」ということを書いてきたが、そもそも買い物や消費とは、必需においてのみされるものでなく、ワクワクするものなのだ。そう考えていたら、ずいぶん前に当コラムの前身である日経MJ紙に掲載したある事例を思い出した。久しぶりに再掲したい。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員からいただいた、ある実践のご報告だ。
その会社は、県内の数店舗で土工農具などを販売する一方で、建設機器リースや浄化槽の設計施工その他の事業を幅広く営んでいる。その関連で多彩なイベントや講習会を開催しており、たとえば「バックホー上達スクール」「溶接教室」「チェーンソーメンテナンス講習会」や小型車両の資格講習会などがある。そんなイベントや講習会メニューが充実してきたある年、これだけ数多くの催しをお客さんに知ってもらうためにはどうしたらいいかと考え、一覧できるよう年間カレンダーを制作し、会員向けにDMで送るようにした。
それを2年間続けていると、驚いたことにそれらのイベントへ、最寄り以外の会場へも足を運んでくれるお客さんが増えていることに気づいた。同社は県内に広く営業所を展開しているため、最も遠い営業所間は車で4時間くらいかかる。にもかかわらず、「最寄りの営業所の日程は都合が悪かったから、こっちへ来たよ」「こっち方面に家族で遊びに来たので、ついでに」などと行き来する方が少なくないのだ。
さらにはそんな方々のなかに、このお客さんは自分たちと話をしたくて、関係性を築きたくて何回も足を運んでくれていると明らかに思える方が何人もいた。そんな方々に何かお礼ができるようなことはないだろうか、そう考えた彼らは、約30のイベントや講習会を対象にスタンプラリーを行うことを思いついた。各会場の対象イベントを転々としていただき、多くの会場へ足を運んでくれた方に特別なものをプレゼントするというものだ。
こういった企画自体はよくあるものだ。ただ今回の場合、家族でポケモンのスタンプを集めたりするわけでなく、対象は機器のメンテナンスや小型車両の講習会だ。そしてそこに来る方々はほとんどいわゆる〝おじさん〟である。はたしてこの企画はうけるのか?この続きは次回に。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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