【小阪裕司コラム第273話】モビールの競合はブルーベリー?

【小阪裕司コラム第273話】モビールの競合はブルーベリー?

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第273話】モビールの競合はブルーベリー?

 あなたは「モビール」というものをご存知だろうか。一般的には「インテリア用品」として売られているものだが、これを「買う理由」は何だろう?今日はこの「買う理由」についての興味深い報告を紹介しよう。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、モビールメーカーからのご報告だ。

 モビールは、「動く彫刻」とも言われる、天井から吊るして飾る装飾品。紙やプラスティックなどでできた部品が糸や紐で吊るされ、風が吹くとゆらゆらと動く。その「買う理由」となれば、部屋がアートな感じになる、雰囲気が良くなることなどが挙げられるだろう。

 では、次の話を聞くとどうだろう。人には、動いているものを目で追う「追視」という習性がある。モビールのようにゆっくり動くものを追視する運動は「追従性眼球運動」と呼ばれ、眼球の筋肉を動かすことになり、目の周りや脳の血流がよくなることがわかっている。スマホに代表されるように、近くを見ることが多い現代の生活では、少し遠くの動くものを眺めることで、目の筋肉もほぐれ、リフレッシュすることもできるという。

 また、わずかな風で動くモビールは、目には見えない風や重力を感じさせてくれる。不規則な動きと相まって、自律神経系を安静モードにし、リラックスさせる効果があることも、わかっているのだそうだ。

 これらは実際、モビールメーカーの社長から聞いた話だが、今これを聞いて、「モビール買いたい!」となった方がいるのではないだろうか。そしてその理由は、「雰囲気を良くする」というより、「目の疲れを和らげる」「仕事の疲れを心身共に癒す」など、健康や仕事に関するものではないだろうか。モビールという商品に対する、新たな「買う理由」である。

 実際このメーカーは、先日あった展示会で、初めてこれらの点を訴求してみた。すると、お客さんの反応が、今までとはずいぶん変わったそうだ。特に追視については「そういう見方もあるんですね。いいかも」と好反応だったとのこと。

 この一連の話を聞いて私が興味深かったのは、従来の「買う理由」ならモビールは「インテリア用品」だが、新たな理由では「健康関連商品」にもなることだ。目の疲れを癒すのなら、競合品は目薬やブルーベリーだ。販売チャネルはドラッグストアかもしれない。こうして「買う理由」から考えを巡らすと、商品やサービスの新たな可能性が見えて来るものなのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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