【小阪裕司コラム第279話】「特別な成果」はなぜ生まれるか
【小阪裕司コラム第279話】「特別な成果」はなぜ生まれるか
先週、先々週と、お客さんを「顧客化」することが業績を底堅く上げていくお話をした。その具体的な例として、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のある化粧品専門店による、3ヵ年の取り組み内容とその結果をご紹介した。そして、やるべきことを地道にやることが、結果的に着実な成果を手にすることになることも。
実はこの報告、今からおよそ18年前にいただいたものだ。その後の18年間も「やるべきこと」を地道にやり続けた同店は今どうなっているか。
顧客数はほぼ右肩上がり。18年前の報告時に約2000人だった顧客数は、今では約3900人とほぼ倍になっている。ちなみに同店における「顧客数」とは「リピートし続けてくれているお客さん」のこと。業種が化粧品店であり、化粧品が消耗品であるだけに、ここで言う「顧客数」が売上に直結することは分かるだろう。実際、売上自体も顧客数の増加に完全に一致する形で右肩上がりに。しかも、顧客の年間購入額も上がっているので、顧客数以上に売上は上昇してきた。
近年のコロナ禍の際には、売上もさすがに減少したが、それでも、たったの4%減。コロナでショッピングセンター自体の営業が制限される中、驚くべき数字と言える。そして、2023年にはなんと、顧客数が一気に568人も増え、今日の数字となっている。
これがいかにすごいことかは、同店の立地を考えれば、より明白になる。同店が入っているショッピングセンターは築30年ほどで、お世辞にも新しいとは言えない。人口減により集客力も年々減少しており、今では空き店舗も目立つ。ショッピングセンター内の店舗はどうしても、そのショッピングセンターの集客力に左右されるが、その中で20年以上にわたって顧客数を増やし、売上も増やしている同店が、いかに特別かが分かる。
さらに言えば、ここ30年ほどで化粧品専門店は激減している。業界団体の会員数は1995年に1万6310店だったのが、2021年には3695店と、実に4分の1以下になっているとのこと。こうした環境下での成果なのである。
しかしこの「特別な成果」は、「特別な手立て」によるものではない。店主も言う。「たいしたことは何もやっていません。コツコツと地味なことを、ひたすらやっているだけです」。結局は、奇手奇策を狙わず、やるべきことをやり続けること。商売において、それに勝るものはないのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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