【小阪裕司コラム第337話】「問い合わせ」が少ない理由は

【小阪裕司コラム第337話】「問い合わせ」が少ない理由は

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第337話】「問い合わせ」が少ない理由は

 今回は、積極的かつ適切な情報発信が相手の行動を引き出すお話。今回は「新規見込み客からの問い合わせ」という行動だ。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の認知症対応型グループホームからのご報告。

 今回の取り組みは、「新規入所者様の獲得と他居宅介護支援事業所からの問い合わせを増やす」目的で行われた。同ホームにおいては、新規入所者の獲得が一般の店における新規客の獲得となるが、問い合わせは入所者のご家族からでなく、ケアマネージャーからとなる。彼らは市内各所にある介護支援事業所にいるが、これまでそこからの問い合わせは少なく、別ルートからの入居者が多い状況だった。

 そこで、地域における認知度を高め、ケアマネージャーとの新たなつながりを築くことで入所者の獲得につなげようと考えた。具体的には、チラシを作成し、市内の各居宅介護支援事業所へFAX送信を行ったのである。とはいえそのチラシはさほど手の込んだものではなく、表面には施設内外の写真と幾つかの特徴を書き、「現在の空室○部屋(○月末○日現在」として空室情報を記載し、電話、メールなどの連絡先を記載したもの。裏面は同ホームを含むグループ全体のシンボルキャラクターが大きく書かれ、他の施設の連絡先が列記されたものだ。

 結果はすぐに出た。5件の問い合わせが入ったのだ。その中に、これまで問い合わせのなかった新規の介護支援事業所が3件あり、他の2件も施設見学や入所申込みにつながり、想定以上の反響があった。中でも特徴的だったのは、あるケアマネージャーからこう言われたことだ。「いつも満床で入所できないと思っていたので、チラシを見て驚きました」。

 この事例からの学びはまさにこの言葉にある。お客さんの側にはこういう思い込みがあるということだ。今回の業種に限らず、お客さんからの問い合わせが少ないとき、売り手としてはつい「認知度が低いのではないか」「提供している商品やサービスにそもそもニーズがないのではないか」などと考えがちだが、実際にはお客さんは十分認知しており、ニーズもある。

 しかし、このような思い込みで行動をしないでいるケースは多いのである。だからこそ、こちらからの積極的な働きかけが必要だ。また、今回のケースでは「空室情報」がカギだったが、このように、相手に何を知らせれば行動してくれるのかをよく考え、適切な情報を発信することが肝要なのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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