【小阪裕司コラム第339話】“漂流するお客さん”がたどり着く場所とは

【小阪裕司コラム第339話】“漂流するお客さん”がたどり着く場所とは

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第339話】“漂流するお客さん”がたどり着く場所とは

 今回は、行き場がなく言わば〝漂流している〟お客さんのお話。今日の社会での店の役割・あり方を考えさせられるエピソードだ。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のある自転車店からのご報告。

 あるとき同店に、小学校低学年の男の子とその母親が来店した。彼女は一枚の図面を手渡しつつ、こう言った。「自転車が欲しいのですが、このブレーキが付いた自転車を買えますか?」。それは指が不自由な人でもブレーキを掛けられるブレーキレバーの図面。その男の子は左指が欠損していたのだ。彼女はある会合でこのブレーキの存在を知り、これなら息子も他の子どもたちと自転車で遊びに出かけられると考え、来店したのだった。

 しかし、自転車業界に20年以上携わっている店主も初めて知るブレーキだ。時間をいただきたいと、この親子には一旦引き取ってもらい、まず製造元のホームページなどをチェック。さらに製造元に電話し経緯を伝えると、このブレーキが装着された自転車の製造・販売はしておらず、ブレーキ単体で売っているとのこと。そしてこう言った。「この製品を困っている人々に伝えたい。その仲間になって欲しい。販売元としてそちらのお店をホームページでお知らせしてよいか」。店主は一連のやり取りから、熱心で信頼のおける製造元だと確信した。

 製品が届くと早速自転車に装着。思った通り品質も高く、自転車のデザインにもマッチしている。また、自店が行っている無料出張修理などの顧客向けサービスを利活用してもらえれば今後も安全に乗り続けられるだろうと判断し、母親にお売りできることを連絡した。

 そうして納品日を迎えると、父親も含め家族全員がご来店。息子さんは自転車を見て大喜び。納品する自転車と記念撮影し、額に入れてプレゼントする同店恒例の儀式も、家族全員で大いに盛り上がったのだった。その後、母親が改めて来店したときのこと。遠方のお客さんでもあったので、どうして今回自店に来たのかを聞いてみた。するとこういう返答があった。「実は何件もの自転車屋さんに断り続けられてたどり着きました。(中略)ここで購入できて、よかったです」。

 近年、実践会員らの現場報告を見ていると、自転車に限らず、様々な事情や悩みを抱えたお客さんが、頼る当てもなく行き場を失ったまま漂流し、最後に彼らの店にたどり着く例が増えている。今回、断った店にはそれぞれの事情があったのだろう。とはいえ、お客さんは漂流している。そんな彼らが最後にたどり着く場所とは、どういう場所なのだろうか。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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