【小阪裕司コラム第342話】「作業」が価値ある「儀式」になると
【小阪裕司コラム第342話】「作業」が価値ある「儀式」になると

今回は、自分たちにとっては日常作業のささやかなことが、お客さんにとっては大切な儀式となるお話。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のある工務店からのご報告。
「住宅の引き渡しはお客様の気持ちも盛り上がり、記念すべき情緒的な体験をしていただくのに、とても良いタイミング」と店主は言う。事実、実践会員の住宅ビジネス関係者はこの「引き渡し式」を重視し、様々に演出している。ただ、彼はテープカットなどのセレモニーは気恥ずかしいとのことで、「取扱説明や記念写真の撮影など、基本的なことで終わってしまい、『もう少し盛り上がることができたらな』と思っていました」。
そんな折、あるお客さんへの引き渡し時のこと。ちょうどその日に表札が仕上がって届いたことから、店主はとっさの思いつきで「せっかくなので、この表札をご家族皆さんで取り付けていただいてはどうでしょうか?もちろんお手伝いしますので」とお勧めした。

表札の取り付けは、ものにもよるが、壁に固定するための小さな穴を開け、表札の裏面に接着剤を塗り、穴にボルトを差し込みつつ貼り付けるというシンプルな作業で、店主が行えば3分ほどで済む内容だ。これを細かく工程分解し、家族みんなで担当し、行ってもらうことにした。下穴をあけるのはご長男、接着剤を塗るのは娘さん、貼り付けるのは奥様を中心としたご家族皆さんで作業してもらうようにしたのだ。
この作業が終わったとき、奥様がポツリと「これで家が完成しましたね」と、しみじみとおっしゃったことが印象に残ったと店主は言う。自分たちが普段何気なく行っていることも、お客さんにとっては非日常。自分がやってしまえば「簡単な作業」だが、家族にとってはこの家を完成させる「儀式」となり得ると、大きな気づきがあったという。
ここで行われたことは、「施主に表札を取り付けてもらう」というささやかなことだ。しかしお客さんにとっては、先の奥様の一言に象徴されるように、価値ある体験となる。まさに、店主の言うように「作業」が「儀式」になるのだ。それはすなわち、お客さんにとって、買ったものの価値が大きく異なることとなる。この〝違い〟に気づけること。それが今日の社会において高い付加価値を提供できることにつながっていくのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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