【小阪裕司コラム第2話】たった一言で「売れない商品」が「売れる商品」に変わる
【小阪裕司コラム第2話】たった一言で「売れない商品」が「売れる商品」に変わる
ある食品スーパーでのお話。
美味しいと自負しているが売れていなかった商品が、たった一言で売れ筋に変わったというものだ。
報告は、本商品も含めた店頭販促担当者からいただいた。
ある食品スーパーの鮮魚売り場に「まぐろのカマ照り焼き」という商品があった。
このチェーンでは各店で扱っているが、関係者には美味しいのに思ったように売れない商品とされていた。 その理由をある店のチーフに尋ねてみると、「手間がかかっておいしいんだけど、価格がね…」という返答。
単価は400円。他の商品と比較して高価で売れないとの見解だ。
そこで販促担当者が、その「手間がかかっている」点はどの点なのかと聞いたところ、「焼き上がるのに、業務用のオーブンで25分かかるんだよ」と言う。
しかし商品のパックには、価格など最低限の表記しかない。
そこで彼は、いたってシンプルな、ワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)的工夫をしてみた。
「焼き上がりまで25分!?」
というキャッチに、
「焼き上がりまでなんと25分かかります。じっくり焼き上げたこそのおいしさです」
と記したPOP(店頭販促物)を作り、掲示してみたのである。
すると、そのPOPを立ち止まって眺める人が現れ、商品は面白いように棚からなくなり始め、あっと言う間に売り切れてしまった。 次に、商品がなくなってもPOPを掲示しておくと、「このカマはないの?」と尋ねる人が現れ、「じっくり焼き上げるので25分かかります」と応えると、「後で来るわ」というお客さんが続出。
こうしてこの商品は「売れる商品」となったのだった。
このエピソードから、どんな気づきや学びが得られるだろうか。
「POPは意外と効果がある」、あるいは、
「売るためのテクニックとしてこういうやり方がある」
という学びがあると思う方は多いだろう。
しかし、ここでより大切なことは、「売る」ということに対する視点だ。
この店でも、手間をかけておいしいものを作っている自負はある。
ところが思うように売れない。
そんなとき「価値が伝わっていない。きちんと伝えよう」とは考えず、
「価格がね…」と結論づけがちではないだろうか。。
しかしこの例が示すように、その判断はしばしば間違っており、
自ら売上を失ってしまうことになる。
もちろんこれは食品スーパーのみならず、あらゆる業界で起こっていることだ。
あなたの業界、あなたの会社ではどうだろうか?
この例のように、売れるはずなのに売れていないものは数多い。
そこでPOPなどを効果的に使うことはもちろん効果的だ。
しかしそれ以上に重要なことは、その状況がどう見えているか、
「今、商売がどう見えているか」なのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。