【小阪裕司コラム第25話】絆ができると起こるこんなこと
【小阪裕司コラム第25話】絆ができると起こるこんなこと
ある化粧品店からのご報告。その年の締め日に予算達成が危なくなった。
メーカーの取引条件が変わる売上実績のラインだ。
ここを割ってしまうと条件が悪くなり、ひいてはサンプルの数なども減り、お客さんにも迷惑をかけてしまう。
しかし足りない数字が大きく、セールではとても達成できそうになかった。
そこでダイレクトメール(以下DM)を通じ、お客さんに赤裸々に事情を告白し、購入を頼んでみることにした。もちろん全顧客にではない。
年間の買い上げ金額の多い顧客や、日ごろから気にかけてくれていると思われる顧客に対してだ。
そうして選んだ顧客数は百名強。大急ぎでDMを作成したものの、彼女たちの手元に届いたのは締め日の3~4日前。締め日まであと2日の時点ではまだ、とても間に合いそうにない売上金額が未達だった。
しかし結果はと言えば、最後の2日間、DMを送った顧客の多くが来店し次々購入、予算は達成できたのだった。
驚くのはDMを送った顧客の来店・購入率だ。
実に約74%。DMの平均的な開封率ですら3%前後と言われるこの時代に、驚異的と言える数字だろう。
平均購入単価も高く、予算達成には彼女たちが大きく貢献したことがわかる。
また顧客らは来店時、口々に
「こんな時にしか協力できないし」
「いくら買えばいいの?」
「手紙読んで、来なぁアカンと思った!」
と応援の言葉をかけていったという。
どのような店でもこんな時、赤裸々に事情を話しお願いすれば、同じ結果が出るかと言えばそうではない。
このようなことが起こる背景には、顧客らがこの店を応援したいという気持ちがあるからだ。 それには、普段からの絆作り活動がものを言うのである。
ところで、今回の顧客らの応援に対して、店主はどのように返礼したか。
もともとお客さんがきれいになって豊かな人生を送ってもらうことをミッションに掲げているこの店。 返礼は、美人祈願にご利益があるという観音様に祈願に行き、そのお守りに礼状を添えて送ったとのこと。
このお返しも大正解だ。今回顧客らが買い物に走ったのは彼を助けるためであって、何かがお得だからではない。 経済的利得からではなく、応援したい気持ちから行動したのだ。
そうした気持ちには気持ちで返すことが大切で、ゆめゆめ割引券などで返礼してはいけない。
そして、この気持ちと気持ちの往還がまた、店と顧客の絆を深めるのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。