【小阪裕司コラム第37話】結果が出ないときの改善の決め手とは2
【小阪裕司コラム第37話】結果が出ないときの改善の決め手とは2
先週ご紹介した、あるワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)の、アウトドア用品のネットショップからのご報告の続き。
「国産」「高品質」が売りだった主力商品のシュラフ(寝袋)を、メーカーが中国生産に切り替えた際、品質は問題ないのに、売れ行きは大きくダウン。そこで店主はあきらめず、どんな試行錯誤を行ったか。
ポイントは、この商品の価値をどう訴求するかにあった。中国産になった途端売れ行きが落ちたのだから、そこがカギであることは間違いない。
最初は、中国生産であることを正直に書き、「正規のN社ブランド製品でありメーカー保証の対象ですのでご安心下さい」としたが、売れ行きは前年比3分の1。
そこで説明文を「高品質ダックダウンとナイロン生地を日本から輸送し、海外で縫製する事によりコストダウンを実現」「N社による検品でもハイクオリティーな仕上がりが確認できており、メーカー保証の対象商品」などと詳しくしたが変わらない。
さらに次は、国内工場がキャパオーバーで困っている窮状を訴え、N社社長自ら現地に赴いて視察を行い、数ある工場の中からベストな工場を厳選したことも盛り込み、不本意ながらポイント10 倍も加えてみたが、それでも大きくは変化なし。
店主は何度も文章を読み直し、これだけ説明を尽くしているのになぜ価値が伝わらないのかと、改めて考えてみた。すると、ふと「説明を尽くしている」という点に引っかかりを感じた。「説明を尽くす」=「価値を伝えること」なのか、と。
そこで、自分がお客さんになったつもりで再考してみると、価値を伝えると言いつつも、ただ言い訳を並べていただけのような気がしてきた。
そこで文面のトーンを、「このシュラフはN社社長が惚れ込んだハイクオリティーな海外工場で製造されて」いること、「完成品をN社内で検品したところ、その品質は日本国内レベルかそれ以上であったため、特別にメーカー保証の対象商品」となっているなど、大きく変えてみた。
すると、売り行きは不調時の約9倍にアップ。その後ポイント10倍をやめても維持できるようになったのであった。
ここで学べることは、まず、価値をどう訴求するかによってお客さんの行動は
変わること。これはワクワク系のセオリーだ。
そしてさらに大切なことは、彼のようにあきらめず何度も改善を繰り返すことが、成果にたどり着く道だということだ。彼は言う。以前なら「安売りで処分して『やっぱり国産でないと売れないか…』となっていた」。
しかし彼は今、自然と試行錯誤ができる。「これからも、3回失敗する前提で改善を続けていきたいと思います」とは、彼の談である。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。