【小阪裕司コラム第84話】運ばれて来た未来にどう乗るか
【小阪裕司コラム第84話】運ばれて来た未来にどう乗るか
年始早々の緊急事態宣言。今年1年、社会はこんな感じで進んでいくだろう。「こんな感じ」というのは、社会全体は道が定まらず、ときに以前このコラムにも書いた「対症療法の罠」に陥りながら進んでいくということだ。
しかし、個々の商いはそうであってはならない。今日はそれに関連する、ある報告をご紹介したい。
昨年末、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)の会員の、ご夫婦で美容院と整体院を営む方からご報告をいただいた。
どちらもコロナ禍の影響を多大に受けているとされる業種だが、昨年も売上は伸びたと言う。もともと4年前からワクワク系に取り組み、2019年までで155%の伸び。それがさらに昨年伸びたと言うのである。
彼は、これまで学んできたことのポイントのひとつが、「自店のお客様は誰で、そのお客様に対して自分は何をしているのか?」という問いにあると言う。
「ワクワク系では、売れないのは商品が悪いのではなく『お客さんが行動しない』ことにあり、ましてや値引きはジョーカー、立地も理由にはしていません」。
だからこそ、行動してもらうための働きかけが肝要で、ましてコロナでお客さんは行動しにくくなっている。より緻密な働きかけ、「お客様に対して何をしているのか」が重要だ。
また彼はこうも言う。
「関係作りができていない人から、いきなり『買って下さい』と言われても買う確率は低い。であれば相手から好感を持ってもらい信用していただく」「そのとっかかりとして名刺・名札・ニュースレターなどを使い自己開示していき、名簿をとり、次のプログラムへとつなげていく」。
こうした学びを昨年も粛々と実行したことが先の業績となっている。
一方彼からは、地元経営者との、昨今のコロナ禍による意見交換会の報告もあったが、そこには参加者からのこんな言葉が並んでいた。
「来店数が3割から5割ほど落ちている。新商品を来月販売するが、値引きして買っていただき、さらに割引券をその場で渡したい」
「商品を陳列しプライスカードを貼るだけで精一杯。POP などの商品説明をしている時間なんて全くない。いい商品なのに全く反応がない」
「いかに給付金を申請するか日々それだけ考えている」。
ワクワク系を学んでいなければ自分もきっと同じ考え、行動をとっていたと思うと彼は言うが、このコロナ禍で最も怖いことは、このように良くない流れに巻き込まれてしまうことだ。
コロナが運んで来た未来はもう元には戻らない。
だからこそ、そこにどう乗るかが今最も重要なことなのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。