【小阪裕司コラム第112話】世界を見る新しい方法
【小阪裕司コラム第112話】世界を見る新しい方法
先日、ワクワク系(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を、われわれはそう呼んでいる)のある呉服店主から聞いた話が衝撃的だったので、ここでぜひ分かち合いたい。
同店は、長らく不況と言われ続けている呉服業界で、地方の町の一店舗にも関わらず、ずっと堅調な成長を遂げて来た。そして近年では、呉服だけでなく、人が美しくあるための様々なもの、例えば化粧品なども扱い、顧客に喜ばれてきた。そんな同店が、ある高級化粧品の販売で日本一になったという。化粧品店でなく、呉服店である同店による快挙だ。
そんな折、同じ商品を扱う化粧品店から、次のようなことを言われたという。「そちらのお店が日本一になったのは、呉服店だからなんですね。呉服店だと、お金に余裕のある良いお客さんがたくさん集まるんですね。うちも呉服店をやりたいと思います。ルートを紹介していただけませんでしょうか」。この発言、あなたはどう感じるだろうか。
同店が日本一になった原因はもちろん「呉服店だから」ではない。十数年、800回を超えるこのコラムでも伝え続けてきたことだが、顧客と絆を育み、丁寧に顧客コミュニティを育て、そこに「自分が良いと思うもの」の価値を適確に伝える。今日、それができるようになることで、業種を問わず、同店のような結果が生まれる。「呉服を売ることがカギ」というような見方は、すでに古い世界の見方なのだ。
そんな同店とて、コロナの影響を受けていないわけではない。しかしこれも昨年来ここで伝え続けているように、今ワクワク系では、コロナを奇貨として、皆様々なチャレンジをし、新たな社会に合ったビジネスの形を生み出している。同店主もそうだ。世界をさらに新たな目で見ているのである。
このコロナが脳に与える影響を、神経科学者である、スタンフォード大学のデイヴィッド・イーグルマン非常勤教授はこう語る。「しかし、脳の可塑性の観点からは明るい兆しが少し見えます。私たちは、このパンデミックの中で新しいことをしたり、新しい方法を見つけたりするために、脳に課題を与え続けてきたからです。もし2020年を経験していなかったら、私たちは今も古い世界の内部モデルを持ったままでしょうし、脳に無理をさせて今の状況のような変化をさせることもなかったでしょう。神経科学の観点からすると、私たちにできる最も重要なことは、常に脳に課題を出し続け、新しい経路を構築し、世界を見る新しい方法を見つけることなのです」。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。