【小阪裕司コラム第113話】卸単価を上げるには

【小阪裕司コラム第113話】卸単価を上げるには

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第113話】卸単価を上げるには

先日、ワクワク系マーケティング実践会(私が20年以上主宰している、企業とビジネスパーソンの会)会員の、お茶の栽培から加工・製造、エンドユーザーへの直販など手広く営まれている会社社長から、最近の実践と成果を詳しく伺う機会があった。そこでの主な話題は、卸単価を大幅に上げられるようになってきた、その成果と取り組みについてだ。

値上げしたわけではない。そもそも、このコラムをお読みの製造業、卸業の方は分かると思うが、それほど単純なものではないし、お茶に限らず多くの業界では、「より安く」が常に行われている実情がある。そんななか、彼が実現できるようになってきたことを一言で言えば、「より良い商品を正当な卸値で売る」ことである。

それには何をやればいいのだろう。そのひとつとして同社が行った具体的なことは、自社の取り組みを美しい写真でまとめた写真集のような冊子を制作し、関係者に配布することだった。そこには、茶畑や加工設備などの写真もあれば、その栽培・製造に取り組む人々の姿、志を同じくする仲間たちの姿もある。この冊子をきっかけとして、自社の取り組みや、お茶の持つそもそもの価値を改めて知ってもらい、その価値をサプライチェーンの末端、最終消費者にまで届ける仕組みを作る、それが現在の同社の取り組みだ。もちろんこの冊子ひとつですべてが変わるわけではないし、皆が変わるわけではない。しかしこの冊子を含む一連の取り組みを始めて同社では、1年足らずで実際に、卸単価は大幅に上がってきているのである。

常々お伝えしていることだが、世の多くの人々――サプライチェーンの末端、最終消費者――は、安いものを求めているのではない。自分にとって価値あるものを求めている。それがお茶の世界であれば、美味しいお茶や安全なお茶、飲むことで毎日が愉しくなるようなお茶、それを含む“意味ある体験”、そういうものを求めているのだ。そして、自社がそれに資するお茶を創っているのなら、それは、それが持つ価値と共に、末端の消費者にまで届ける必要がある。しかしそれには生産者だけではできないことがある。そこで、どうすれば価値が伝わるか、ステークホルダー全体で行えるようになるかを考え、皆で実行していく必要がある。先に取り上げた冊子はそのための重要なカギを握るものなのである。

客単価を上げる――これはどの業界でも実現したいテーマだろう。しかし「客単価が上がる」のは結果であって、原因は「価値が伝わること」。それを皆で取り組むときが来ているのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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