【小阪裕司コラム第118話】規格外品を定価で完売させるには
【小阪裕司コラム第118話】規格外品を定価で完売させるには
ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、農業を営む方から、くすっと笑える、と同時に深い学びのあるご報告をいただいた。
それは、委託の直売所で自家栽培のトマトを売った際の実践だ。彼の農園では主にトマトときゅうりを栽培しており、ときに規格外商品ができるが、そのなかに“奇形果”と呼ばれるものがある。それは、簡単にいえば、通常の丸い形ではなく形がいびつなもの。今回の商品も、報告書に2種類の写真が添付されていたが、片方は丸いトマトに角がはえたような形になっている。他方は2つのトマトが合体した形になっている。いずれも通常、店頭ではみかけない形だ。
このような規格外商品を普段はどうしているかといえば、規格品のトマトを買ってくれた方にサービスで差し上げたり、場合によっては廃棄しているという。形がいびつなだけでもちろん品質には問題なく味も変わらず美味しいだけに、いかにももったいない。そこで今回、ワクワク系的に考え、あることを行い、定価で販売してみることにした。そして結果として、見事全品を完売できた。
何をやったのか。彼がやったことはネーミングだ。これら規格外商品に名前を付けた。「丸いトマトに角が生えたような形」のものは見た目の印象から「てんぐ」、「2つのトマトが合体した形」の方はズバリ「ふたご」である。やったことはそれだけ。しかし結果は定価で完売。「お客様はトマトを買ったのではなく、このトマトを通して『ワクワク』や『楽しさ』や『驚き』や『家族との話題』を買ったのだと思います」とは彼の談だ。 この、彼の分析は正しい。と共に、この実践と結果からは、もうひとつ重要なことが分かる。このコラムでは写真をお見せできないのが残念だが、これら2つの規格外商品の写真をまず見て、次に「てんぐ」「ふたご」と袋に名前が貼られた状態で改めて見直すと、印象がまったく変わる、なんだかこの2種のトマトを、可愛らしく、ユーモラスに感じていることに気づく。商品はまったく変わっていないのに、だ。
これこそが人の“感性”のなせる業。そしてこの観点からワクワク系では、常に「価値は創造できるもの」と考える。それは今回彼が実践したように、たとえ規格外でも価値を生むことができ、ひいては定価で完売できることにつながる。これが分かるようになると、商売には無限の可能性が広がっていることにもまた気づくのである。
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