【小阪裕司コラム第12話】パイオニアに深く感謝を
【小阪裕司コラム第12話】パイオニアに深く感謝を
先日、15年以上ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)の会員である石材業の社長より、長年に渡る絆作りの実践とそこでの幾つかのエピソードをまとめたものを送っていただいた。
石材業で主に扱うものは墓石だ。言うまでもないが、墓石は一生に何度も買うものでなく、業界の調べでも、墓石の購入頻度は数十年に一回、ときには数百年に一回とされていることもある。
そんななか、彼の会社はワクワク系初の石材業で、私も彼が実践会に入会した当初、石材業の方がワクワク系をどう使いこなすのか、大変興味深かった。
今では、日本石材工業新聞さんのワクワク系講座の取り組みもあり、当会にも石材業の方は多いが、まさに彼はパイオニアだったのだ。
そんな彼からの報告書には、例えばこんなお客さんとのエピソードがあった。
彼の会社がある関西地区は、昨年大きな地震に見舞われた。多くの墓石が倒壊し、その修理に追われた1年でもあったが、報告書には「昨年感じた3つの絆」とあり、こうあった。
1.お客さんとの絆。一見のお客さんからは「いつになったら、見積でけんねん!」とか、「まだか? いつ、やってくれんねん!」とお叱りを受け続けた一方、絆のあるお客さんからは、「仏さんに対する想いは、皆さんいっしょ。受付順番通りに願います」とか、「急ぎませんので、手の空いたときにお願いします」と言っていただきました。
2.同業者との絆。「お願いします。助けてください」とフェイスブックページに投稿したところ、有難いことに近隣府県はもとより、島根や愛媛からも応援に駆けつけてくれました。また、全国から復旧作業に必要な消耗品などの提供を申し出て頂きました。
3.社員さんとの絆。パートの社員さんも、土・日返上で、小さなお子さんを連れて出勤し、電話対応にあたってくれています。当店を退職した元社員さんからも電話をもらいました。「テレビ、見ました。大変ですね。会社の上司にも許可は取りました。ぜひ手伝わせてください。ただし、条件が一つだけあります。お給料はもらえません」。
繰り返しになるが、同社が主に扱うものは墓石だ。絆作りがすぐさま売上に結び付くものでもない。しかしやり続けることが、結果的に何を生み出すか。
それは、やり続けた者だけが見られる景色だ。そして今は多くの同業者が、彼が生み出した結果を支えに実践に踏み出し、続けることができている。
彼のパイオニア精神に敬意を表すると共に、深く感謝したい。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。