【小阪裕司コラム第13話】なぜ彼はいつでも成果を出せるのか
【小阪裕司コラム第13話】なぜ彼はいつでも成果を出せるのか
先日、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)の会員であるカーテンと福祉用具のレンタル・リース業の社長から報告をいただいた。自社の営業活動に関するご報告だ。
以前日経MJ紙で連載していたコラムで、「100件通って1件受注」というこの業界の営業の常識を破り、一切新規見込み客への訪問営業をせず、絆作りのためのニューズレターを配布するのみの取り組みを進め、2年目には、会ったこともない事業所から、15件もの新規受注を獲得した事例をご紹介したことがある。
彼はさらにその後、他の営業が訪問営業に時間を取られるためおろそかになりがちな、福祉用具の点検等のアフターフォローに十分時間を取ることにより信頼を得、さらに紹介を受けることで、次の年、営業メンバーでたった一人、売上・粗利共に目標達成を果たした、というものだ。その彼がこのたび、同社の別部門に異動した。
別部門とは同社で最も売上の大きいカーテン営業部だ。
以前の福祉用具は、利用者は個人、営業先はケアマネジャー、扱い商品は車いすや介護ベッドだ。
対し、今回の営業先は病院・福祉施設の事務課・施設課の責任者。
扱う数、量、規模も違い、売上額もゼロが一つ増える。
顧客先も扱う商品・サービスも全く違う部門である。
そこでも彼は早々に結果を出した。配属から半年で、売上高・粗利額は全営業中2位。新規も前任以上に上がっている状況。そして何より、1件の顧客あたりの粗利額・粗利率が全社トップとなった。
顧客や代理店の声からも、お客さんから好かれ、頼りにされているのがよく分かると社長は言うが、配属後、まだ半年のことだ。
この成果にはさすがに社長も驚いて、彼にこう聞いた。「一体何をしているのか? どうしたら半年でここまで成果が出せるようになるのか?」すると彼はさらりと一言こう言った。「絆作りですよ」。
ここでお伝えしたいことのひとつはもちろん、前回同様の絆作りや既存客フォローの効果だが、よりお伝えしたいことは一度“コツ”をつかんでしまえば、それは再現できるという事実だ。だからこそ彼は別の部門でも成果が出せる。
きっと彼は、まったく別の業種に行っても同じく成果が出せるだろう。
また、こういう成果が出た場合、しばしば本人が「できるやつ」とされ特別扱いされてしまうが、科学的にはそうではない。彼が会得したコツは他の者も会得できる。
ワクワク系では長年、このコツの分析・把握と分かち合いに力を入れている。
そうすることで、自分の成果は別の機会にも成果となり、ある人の成果が別の人たちの成果となっていくのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。