【小阪裕司コラム第150話】駅で重さ3キロのお地蔵さんが売れる理由2

【小阪裕司コラム第150話】駅で重さ3キロのお地蔵さんが売れる理由2

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第150話】駅で重さ3キロのお地蔵さんが売れる理由2

前回、駅の展示スペースで、重さ約3キロ、お値段8万8千円の石のお地蔵さんが売れた実践をお伝えした。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員のある墓石店によるものだ。この結果に展示スペースの運営会社は「平均販売単価千円の場所で、8万8千円のお地蔵さんが売れるなんてすごい」と驚いたが、当の墓石店主は然るべき結果だと言う。実際のところ、彼は何をやったのか。

前回お話ししたワクワク系の2つのハードル理論によれば、人はまず「買いたいか・買いたくないか」のハードルを越えないと「買う」ことはない。そこで店主は、スペースを覗いた方にまずこのハードルを越えていただくため、石のお地蔵さんにPOP(店頭販促物)を付けた。そこに書かれていたのは次の文章だ。「あるとホッとするお地蔵様。お墓の横に供養として置いたり、お墓のかわりとして自宅に置いたり、オブジェとしてお使いいただいております」。

こう書いてあるのと、単に「〇〇石使用 石のお地蔵さん」と書いてあるのと、どちらがより「買いたい」となるだろうか? どちらが「買いたい」となる人の数が多いだろうか? 私はこのコラムでもよくPOPやダイレクトメールに書かれた文言の話をするが、それは文言が重要なのではなく、1つ目のハードルを越えていただくことが重要だからだ。

さらに店主は、「買えるか・買えないか」のハードルを越えていただくところも考えた。この場合、8万8千円という価格もハードルではある。しかしもっとハードルになり得るものがあるが、何だと思うだろうか? 前回、この場所は「その場で買える」場所だと説明したが、ここで何がハードルとなるだろうか? そう。ものがものだけに、ここでのハードルは「持って帰れる重さだろうか?」という点だ。そう考えた店主は、POPにさらにこう書いた。「重さ3キロ。手で持って帰れます」。そうしてこのお地蔵さんに興味を持ったお客さんは2つのハードルを越え、「買う」となったのである。

私たちワクワク系を実践する者が常に考えることは、「どうすれば売れるだろうか?」ではなく、「どうすれば買うだろうか?」。この2つは似て非なるものだ。そして、それには2つのハードルを越えてもらうこと。そこを考えれば、展示スペースの運営会社が言うような「すごい」結果も、狙って生み出すことができるのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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