【小阪裕司コラム第156話】これが頭に入っていれば2

【小阪裕司コラム第156話】これが頭に入っていれば2

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第156話】これが頭に入っていれば2

前回の話の続き。ある小顔矯正サロンでのこと。店主らは、床に落ちてポンプ式ボトルの頭部分が壊れてしまった「ローズの香りのボディクリーム」を、「猫の貯金箱方式」で売ってみようと試みた。

この方式で売るとなれば、カギはPOP(店頭販促物)だ。そこで猫の貯金箱のPOPを模して、「誰か一緒に暮らしてくれませんか?」の見出しから、こう続けた。「2/14(げつ)てんき くもり バレンタインチョコを買いに行くとちゅうに事故にあいました。〇〇〇(同店の名前)小児科に行ったんだけど首がまっすぐにならず『他の所に行って』と言われました。だれか、私の首をまっすぐにしてくれる人いないかな~」。さらに「じこしょうかい」として、「なまえ•••ローズ(おんなのこ) ねんれい•••6さい たいじゅう•••370g しんちょう•••20cm」。締めには、「事故にあったけど性格(中身)は変わっていないから安心してね。あなたのそばに置いてくれませんか?香りであなたに寄り添いたいです」とし、壊れたポンプはあえて修理せず、POPと共に店頭に置いた。ちなみに販売価格は値引きなしの定価である。

するとある夜、施術を終えた女性顧客が「これ何ですか?」と興味津々なご様子。「実はね•••」といきさつを語ると、「このPOP見てたら、私がこの子を引き取りたくなっちゃって」と、見事定価でお買い上げ。POPも一緒にお渡しすると、手にしたPOPとローズちゃんに「私の家においで」と語りかけながら、嬉しそうにお帰りになった。

この出来事に一同ハッピーな気持ちになったのだが、さらに翌日、この方からLINEで連絡が。「同居人先生がローズちゃんを治してくれました」というメッセージと共に、その同居人が接着剤片手に真剣な眼差しでローズちゃんの頭を取り付けている写真が送られてきたのだった。 落としてボトルの頭部分が壊れてしまったボディクリームを、普通はそのまま定価で売ろうと思わない。さらにはそこにさらに価値を生もうとは。しかしこういう事例が頭に入っていると、彼らのように、「あの事例があったな。あのときは…」と、打つ手が浮かんで来る。当会ではこうした事例を毎月数多くシェアしているが、この「インプットの量」、どれだけ多くの事例を頭に入れているかがものを言う。

そしてもうひとつ今回の実践が秀逸なのは、単なる「ボディクリームの容器」に「猫の貯金箱」を応用した点だ。インプットの量と柔軟な応用力、この2つが合わされば鬼に金棒。それによりビジネス上の課題も、ときに思いもよらない方法で、ときにみんながハッピーな気持ちになりながら、解決されていくのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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