【小阪裕司コラム第163話】なぜこの値上げは受け入れられるのか1

【小阪裕司コラム第163話】なぜこの値上げは受け入れられるのか1

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第163話】なぜこの値上げは受け入れられるのか1

世は値上げラッシュ。まさに今、この価格上昇時代にどう対処するか、「価値」と「価格」についての本を書いているが、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員からも、続々と値上げ報告が届いている。今日はその中のひとつ。ペットのトリミングサロンやペットホテルなどを営む方からのご報告を紹介しよう。

 同社は、2022年の5月、トリミングとペットホテルの料金を大幅に値上げした。その背景にはご多分にもれず、燃料、光熱費、備品などの価格が軒並み上がってきたこともあるが、そもそも業界全体としてトリミング料金が安過ぎることもある。いつかはそれを是正しなければ、どのみちこの先、良いスタッフを育て、良いサービスを提供し続けることはできなくなると考えてのことだ。

 値上げにあたって店主は、世の中の流れに便乗し、単に「大変だから値上げします」としたくはなかった。これまでの経緯、意図があっての値上げであること、ある意味苦渋の決断でもあることをしっかり伝えたいと考えた。

そこで、事の経緯や背景を、定期的に発行しているニューズレター(以下、NL)に書き、店のLINEや店頭でも、「トリミングと、ペットホテル料金の値上げを行います。この苦渋の決断の経緯とお客様に対する思いがNLに綴られています。ご一読お願いします」と発信し、強く訴えた。

結果はどうだったか。値上げ前の4月の数字を100とすると、トリミングの売上は100.2%、ホテルは127.9%、その他、近年力を入れているドッグトレーニングは149.9%、物販122.1%で、5月の売上全体では108%と下がらなかった。 ホテルの伸びは、5月にはGWもあり、タイミングも良かったと彼女は言うが、タイミングだけならむしろこの機に安い他店に流れてしまうこともあろう。彼女が「自宅兼店舗で夜間も無人にならない、フリースペースがあるので、ケージに入れっぱなしではない、『安心』『温かさ』などの価値を前面に出しています」と言うように、より価値あるサービスを提供し、それを伝えていることが功を奏している。「ホテルについても、こちらが思うより、抵抗なく値上げを受け入れてくれている感じがしました」。

さて、今、ざっと顛末をお話ししたが、値上げの際、お客さんの反応はどうだったのだろう。また、こうして値上げがうまくいく会社は私の周りに多いが、そこには共通したカギがある。それは何だろうか? 続きは次回に。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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