【小阪裕司コラム第164話】なぜこの値上げは受け入れられるのか2
【小阪裕司コラム第164話】なぜこの値上げは受け入れられるのか2
前回、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、ペットのトリミングサロンやペットホテルを営む方による、値上げの顛末をご紹介した。結果として値上げは受け入れられたが、実際のところ、お客さんの反応はどうだったのだろう。また、こうして値上げがうまくいく会社は私の周りに多いが、そこには共通したカギがある。それは何だろうか?
店主は値上げにあたって、単に「大変だから値上げします」とせず、これまでの経緯や意図、苦渋の決断でもあることをしっかり伝えたいと考え、ニューズレターなどで徹底的に発信したことは前回述べた。
それでもお客さんの反応は4つに分かれた。まず、値上げを理解いただけないお客さん。次に、「あ、そうなんですね。わかりました」と言ってくれはするものの言葉は少なめ、次回の予約は入れてくれないお客さん。
ただ、多かったのは次の二つのパターンのお客さんだ。「かなり上がるねー。でもしょうがないよね」と言いつつ予約を入れてくれるお客さん。そして、「あー、はいはい、全然大丈夫だよ」と、普段とまったく変わらないお客さん。およその方がこのどちらかだったこともあり、おおむね値上げは受け入れられたと店主は判断する。
もちろん、こうしたお客さんが多いことの背景には、店主を始めスタッフらが日ごろから顧客との関係性作りを重視し、ニューズレターなどでコミュニケーションを取り、良い関係を育んでいたことがあるが、これこそがカギだ。ワクワク系のお店・会社は元々顧客との関係性を育んでいる。関係性のある顧客は他社よりも高い価格を受容することは研究で知られているが、まさに今日、思いがけないことで、その効果が露わになっている。だからこそ、今後も続くであろう「価格上昇時代」に対して、顧客との関係性作りは、遠回りのように見えて近い、値上げのための土壌作りだ。
こうして無事値上げを行うことができた同店。値上げ後もお客さんは去らず、売上も上がったが、それ以上に大きく上がったものは粗利だった。月間の粗利は、いきなり前月比215%。「粗利の伸び率を計算したときは、何か間違っていないかと思いました」と彼女は言う。しかし実はこれこそが、大事なところ。商売を持続していくために、受け取るべき正当な対価なのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。
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