【小阪裕司コラム第17話】温かい感性・デザイン・サービス2
【小阪裕司コラム第17話】温かい感性・デザイン・サービス2
前回、日本感性工学会大会の「温かい感性・デザイン・サービス」をテーマにしたセッションにおいて、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員企業の実践を題材に研究発表したお話をした。
その題材のひとつが、当実践会で大きな成果をあげている漬物の製造小売業の事例だ。
この店が行った大改装で、以前の露店に商品がところ狭しと並んでいた状況とは一変、和の風情に包まれた、まさに「温かい感性」に訴え得る「温かいデザイン」となった。
その後同店の業績は、商品陳列量が以前の約3分の1であるにも関わらず、売上で約2倍、利益は2.7倍となり、今日も順調に伸びているが、ではこの成果は外観などのデザインの勝利だろうか?
売上が伸び悩む食品店は、皆このような外観にすれば、売上が上がるのだろうか?
まさに今回のセッションでの論点はそこで、今日重要なのは、この物理的なデザインを内包した”サービス全体のデザイン”だ。
では”サービス全体のデザイン”とは何だろう? 例えば同店は改装後、以前にも行っていた店頭でお茶をふるまい、ゆったり試食もしてもらうもてなしを強化した。
また同店では、来店したお客さんと様々な楽しいゲームも行うが、これらは外から見えないことが功を奏し、多くのお客さんにゆったりと参加していただけるものとなっている。
また同店には来店客に手渡す自店発行の新聞があるが、これには特別な企画がある。
同店にはポイントカードもあり、そのデータから今日何回目の来店かが分かるようになっているが、来店回数300回目のお客さんは、その場でお祝いがなされ、店主らと記念撮影し、その写真が例の新聞に載るのだ。
「新聞に載る」と言っても、これは単に漬物屋さんが発行したプライベートな新聞だ。
それに載って喜ぶお客さんがどれだけいるのかと思うだろうか?しかし同店のお客さんは皆大喜び、知り合いに配りたいと何部も欲しがるお客さんも珍しくない。
これは、同店の日々の活動の賜物だ。
今ここに紹介したのは同店が行っている。一見すると売り買いには直接関係ないように見える、様々な営みのほんの一部だ。そして重要なことヒは、これらが全体となって同店の業績を生み出していることだ。内外装も含み、同店は”サービス全体のデザイン”を行い、提供しているのである。
成熟社会の今、お客さんが求めるものはこのようにデザインされた”サービス全体”だ。
このデザイン力を彼らのように鍛えること。そのためには何をどう学び実践すればいいか。それこそが今日の商いに問われていることなのである。
小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)
山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。