【小阪裕司コラム第172話】2年分を2週間で売ったある改善とは

【小阪裕司コラム第172話】2年分を2週間で売ったある改善とは

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第172話】2年分を2週間で売ったある改善とは

今回は、2年間で70本しか売れなかった商品に、店頭であることを行った結果、価格を2割も上げたにも関わらず、2週間で70本、つまりそれまでの2年分を売ることができた、という事例をご紹介しよう。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、ある鮮魚店でのことだ。

 同店では、あるドレッシングを扱っている。店主が顧客に自信を持って薦められると思う逸品だ。メインの鮮魚売り場の什器の上、すぐ目につくところに陳列してあるが、売れ行きはぼちぼち。2年で70本ほどだった。

 そこで店主、こういう商品こそワクワク系の出番と心機一転、ワクワク系に徹して取り組むことにした。そして、どうせ新たに取り組むなら、と価格を2割ほど値上げして、再スタートを切った。

 まずはPOP(店頭販促物)だ。ワクワク系では、自分が良いと思う商品が思ったほど売れない場合、「意外と売れない商品だな」と思わず、「お客さんにこの商品の価値を伝えきれていないのでは」と考える。そして価値をより伝えるべく、POPなどを改善する。当コラムでの店の事例で、POPの例がよく出て来るのはそのためだ。同店にはそれまで目立つPOPは貼ってなかったが、今回は黒地の紙に白い文字で、まずは大きく「〇〇(店主の名前)の一番好きなドレッシング」と書き、このドレッシングを薦める理由や、鮮魚店らしく刺身にかけるだけでカルパッチョになるなど価値を訴求し、メインの鮮魚売り場の什器の上、一番目立つところに大きく貼り出した。

そうしてしばらく様子を見たが、お客さんの反応がどうも薄い。店主ははっとした。黒地・白文字にしたのは、黒板に白いチョークでメニューが書いてあるイタリアンバルのようでかっこいいと思ったからだが、お客さんにはかえって見にくく、POPが目にとまっていないのではないか。そこで早速白地に黒の文字に書き換え、貼り換えた。書いてあることはまったく同じ。しかし、そうした途端にお客さんの動きが変わった。さらにカルパッチョの写真を添えるなど矢継ぎ早に改善を加え、取り組み始めて2週間で70本、2年分を2週間で売ることができたのだった。

 この改善の肝は、黒地・白文字を反転させただけ。しかしたったそれだけで、値上げしたにも関わらず、これほど大きく売上は変わった。このように、人の行動原理をよく知り、人をよく見ていれば、改善できることはたくさんある。もっと多くの売上も得ることができるのである。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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