【小阪裕司コラム第189話】お客さんが自然に記入する顧客リストとは1

【小阪裕司コラム第189話】お客さんが自然に記入する顧客リストとは1

カテゴリ:小阪裕司の「人の心と行動の科学」で商売を学ぶ

【小阪裕司コラム第189話】お客さんが自然に記入する顧客リストとは1

前回、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、清掃会社の事例をご紹介した。お客さんになかなかしてもらえない行動を、たった一言の貼り紙による簡単な働きかけでしてもらえるようになった例だ。同じ発想視点で、今回は顧客リストに関する話をしよう。

商売において顧客リストは極めて重要だ。リストさえあればお客さんと直接コミュニケーションが取れ、来店や購入なども働きかけることができる。しかし個人情報の提供に慎重な人が多い今日、「最近のお客さんは書いてくれません」「うちの業界は特に難しい」との声が商売現場からはよく聞かれる。そこで、ある日本料理店の、次のような実践を見てみよう。

この店でもかつて顧客リストがなかなか作れなかった。お客さんに個人情報を書いてもらう用紙はあるのだが、記入してもらえないのだ。そこで店主らは、お客さんの「書く」という行動をよく考え、ステップに分解してみた。「用紙に気付く」「用紙を手にとる」「ペンを持つ」「書こうと思う」「書く」の五つである。そして無理にではなく、ステップごとにお客さんが自然に次の行動に向かうためには何が必要か、どんな働きかけをするといいのかを考えた。

まず用紙に気付いてもらうためにはどうするか。この店はお客さんの特別な日に利用されることも多く、よくあるテーブルの隅に丸めたアンケート用紙は避けたかった。そしてテーブルに置かれたら視界に入り、思わず手に取ってみたくなるような見た目のものであれば気づいてくれるのではないかと考え、結婚式などに使われるきれいな芳名帳をゲストブックとして用意することにした。日本料理店にふさわしく、きれいな和風柄のものだ。

次にペンを持ってもらうために、思わず書いてみたくなるようなきれいな色のペンを何種類も用意した。また芳名帳を手に取り開いたときに書こうと思ってもらうために、最初のページは店からのご挨拶とし、今日のご縁を大切にし、当店から季節のご挨拶や旬のお知らせなどさせていただきたい旨を綴った。

これらの工夫が実り、多くの来店客が自然に個人情報を記帳してくれるようになった。そうしてめでたく目標は達成されたのだが、欲を言えばお食事の感想も残して欲しい。しかし、そこまではまだ書いてもらえていない。そこで彼らはさらに考えた。この続きは次回に。

小阪裕司

小阪裕司 オラクルひと・しくみ研究所代表 博士(情報学)

山口大学(美学専攻)を卒業後、大手小売業、広告代理店を経て、1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。 新規事業企画・実現可能性検証など数々の大手企業プロジェクトを手掛ける。 また、「人の感性と行動」を軸にしたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 現在、全都道府県と海外から約1500社が参加。 22年を超える活動で、価格競争をしない・立地や業種・規模を問わない1万数千件の成果実例を生み出している。

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